その瞳に映りませんように


「ハシノさんって、部活、いっつも最後まで残ってるよね」


「んー。結構練習が大変でさ~。実は、同じ部の子と部活終わってまで一緒に帰るの、体力的にしんどくて」


「ごめん、もしかして1人で帰りたい派だった?」


「あ、いやいやいや! そういうわけじゃないし。むしろユズキくんが待っててくれて嬉しかったから!」


勢いでそう言ってしまい恥ずかしくなった私は、ちらっと彼を見た。


彼も私を横目で見た後、恥ずかしそうに正面を向きなおし、焦点をぼかした。



ちょうど赤信号になり、2人の足は止まる。


流れるような車のライト、コンビニの明かり、背の高い街灯に照らされる。


無言の空間に恥ずかしさを感じた私は、もう一度ユズキくんを見た。


すると、彼もまた私に目を向けた。


あ――。


彼と視線が絡まった瞬間、

ときめきと戸惑いが合わさった鼓動に襲われた。


やわらかく細められ、

いつもと違って黒目が上下のまぶたに接している彼の目。


そこから彼も私と同じ気持ちであることが、痛いほどに伝わってくる。



「そういうことしれっと言わないでよ。勘違いするじゃん」



でも――

どうしよう、この優しい瞳に映りたくない。


映るのが怖い。



「……ハシノさんは、俺の、目が好きなだけでしょ?」


そうだ。


私は、彼の通常モードの目が好きなのだ。

どこかこの世界を透明ではなく、グレーのフィルターを通して見ているような、その目が。


だけど、もう1つの思いが生じていた。


もっと私を見て欲しい。


相反する感情が、頭の中でごちゃまぜになる。



「あ、ごめん私お母さんからおつかい頼まれてた! あっちのスーパー寄ってから帰るし。じゃあね!」



私は、彼の目に何を求めているのだろう。







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