その瞳に映りませんように


その日は、部活終わりに職員室に寄ったため、1人で下校することに。


用事を終え、下駄箱に向かうと――。


「あ、ユズキくんー」


クラスの下駄箱ゾーンにその姿を見つけた。


上履きを脱ごうとしているのか、彼はしゃがんで手を下に置いている。


しかし、そこに近づこうとした時、


「ごめん、来ないで!」


と体勢を変えないまま、彼は必死な声をあげた。


「え?」


一瞬だけ、ズキン、と胸が痛んだが、よく見ると、ユズキくんは床に手をあて、何かを探っているようだ。


「や、眠くて目こすってたらコンタクト落としちゃって。2ウィークのやつなんだけど今日つけたばっかのやつだから」


天井の蛍光灯に照らされたユズキくんは、うつむいたままそう口を開く。

目の下にまつ毛と涙袋の影が映し出されていた。


「じゃあ私も一緒に探すよ」


そう言って、私も床に膝をつけながら、彼の近くを捜索し始めた。


もちろんミッションを遂行しつつも、ちらっと彼の目を盗み見る。


時々まばたきを挟みながら、右下、左下へと視線を面倒くさそうに動かしている。


本気で探す気あるのだろうか。



確かに、床を凝視しているんだけど、やっぱりその目は一生懸命という言葉が似合わない形状に思えて、ちょっと面白かった。



「ごめんね。たぶんこのへんなんだけど……」


「ソフトのやつだよね? 私もつけてるけど、落としたら探すの苦戦するよね~」


実際には彼は必死にそれを探しているらしい。

今の会話をきっかけに、私も作業に集中した。

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