その瞳に映りませんように


捜索エリアをつぶしていく毎に、ないね~、ないなぁ~、とお互い発する声が段々と近づいていく。



「やっぱあきらめようかな。ありがとう……」


彼の声に反応し、私は顔を上げた。


その瞬間、どくんと大きく心臓音が鳴った。


いつの間にか、距離が縮まっていたユズキくんと、間近で目が合ったのだ。


でも、相変わらずその目は楽しいとか嬉しいとか、そういう感情を持ち合わせていないもののよう。


黒目が上まぶたに寄りがちな彼の目は、焦点が1点に絞り込まれていないようにも見えるし、


その瞳には、何も映っていなかった。



「…………」


ユズキくんも驚いたのか、いったんまぶたを閉じまつ毛を見せてから、視線を横へ外した。


私も、大好きなその目を数10センチの距離で拝むことができ、顔が赤くなってしまいそうだったため、

すっと彼の制服に視線を移した。


「……ん?」


――あ! 見つけた。


「ユズキくん、ネクタイ! 制服のネクタイにはりついてるよ!」


私がそう言うと、彼は再び下を向き、「あ、本当だ」とつぶやいた。


「あ、あははは! それあるあるー!」


思わず私は笑ってしまう。


すると、ユズキくんも

「うわー、マジかぁ」と言いながら、笑みをこぼした。


そして、「ごめんね! このお詫びはいつか!」と謝った後、洗面所の方へ向かっていった。


さっきのユズキくんの笑顔。

その目は斜め下を向いていため、私と視線が合うことはなかった。


しかも、確かに笑ってはいたけど、その目だけは楽しさではなく自嘲気味な色を発していた。



いつもよりも多く、ユズキくんの目を見ることができて嬉しかったし、


これをきっかけにユズキくんとの距離も縮まった。





< 5 / 30 >

この作品をシェア

pagetop