その瞳に映りませんように
捜索エリアをつぶしていく毎に、ないね~、ないなぁ~、とお互い発する声が段々と近づいていく。
「やっぱあきらめようかな。ありがとう……」
彼の声に反応し、私は顔を上げた。
その瞬間、どくんと大きく心臓音が鳴った。
いつの間にか、距離が縮まっていたユズキくんと、間近で目が合ったのだ。
でも、相変わらずその目は楽しいとか嬉しいとか、そういう感情を持ち合わせていないもののよう。
黒目が上まぶたに寄りがちな彼の目は、焦点が1点に絞り込まれていないようにも見えるし、
その瞳には、何も映っていなかった。
「…………」
ユズキくんも驚いたのか、いったんまぶたを閉じまつ毛を見せてから、視線を横へ外した。
私も、大好きなその目を数10センチの距離で拝むことができ、顔が赤くなってしまいそうだったため、
すっと彼の制服に視線を移した。
「……ん?」
――あ! 見つけた。
「ユズキくん、ネクタイ! 制服のネクタイにはりついてるよ!」
私がそう言うと、彼は再び下を向き、「あ、本当だ」とつぶやいた。
「あ、あははは! それあるあるー!」
思わず私は笑ってしまう。
すると、ユズキくんも
「うわー、マジかぁ」と言いながら、笑みをこぼした。
そして、「ごめんね! このお詫びはいつか!」と謝った後、洗面所の方へ向かっていった。
さっきのユズキくんの笑顔。
その目は斜め下を向いていため、私と視線が合うことはなかった。
しかも、確かに笑ってはいたけど、その目だけは楽しさではなく自嘲気味な色を発していた。
いつもよりも多く、ユズキくんの目を見ることができて嬉しかったし、
これをきっかけにユズキくんとの距離も縮まった。