きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―
 あたしもパパの「挑戦」の役に立ちたい。お医者さんになれたら最高だけど、あたし、頭悪いんだよね。医学部に入れる偏差値じゃなくて。だから、せめて日常生活の手伝いができるように、看護師になるんだ。
 瞬一がお医者さんを目指してて、しかも響告大学医学部を狙ってるのも、あたしと同じ理由。パパの「挑戦」に協力するためだ。
 あたしも瞬一も高校生で、看護師やお医者さんになるまでに、まだまだ時間がかかる。でも、間に合わないなんて思ってない。必ずパパの役に立ってみせる。
 ってわけで、あたしの家庭事情は、実は意外とシリアス? まあ、だからこそ笑うっきゃないって感じ。きついって思うことがないわけじゃないけど、誰にも言えないよね。あたしは脳天気な笑顔キャラでいたいし、笑えない話は人前でしないの。
 つらいときは、風坂先生を思い出すんだ。それだけで、あたしは頑張れる。
「さぁてと。ごはん食べて、さっさと宿題しよっ。ピアズも頑張らなきゃいけないもんね!」
 誰もいない家の中で、声に出して宣言する。声を上げたら元気出せるじゃん? ひとりごとを言ったり歌ったり、見よう見まねのボイトレをやったり、あたしは一人でいてもにぎやかだ。
 ごはんは、ママが作り置きしてくれてる。あたし、壊滅的に料理が苦手だから。てきとーすぎるらしい。瞬一は逆に、すっごく几帳面でめちゃくちゃ器用。先端医療の外科医を目指してるだけある。料理も、暇があるときなら、本を見ながら上手に作る。
 あたしはごはんを食べて、宿題を終わらせた。栄養学と英語、たぶん明日は当てられるのに、わかんないとこがあった。泣きたい。朝イチで初生に訊いちゃお。
 お風呂に入ってたら、瞬一が帰ってきた。着替えもせずにキッチンに直行して、ごはんを食べ始める気配。パジャマ姿で、あたしもキッチンに行ってみる。
「おかえり! 今日も遅かったね」
「ああ」
「あんまり根詰めてたら、体、壊すよ?」
「ほっとけ」
「そのリアクション、反抗期ってやつでしょーか」
「うるせぇんだよ」
 瞬一は同い年だけど、あたしにとっては弟みたいなもので。ちっちゃいころはケンカもしてたけど、最近はないな。あたし、怒るの苦手なんだよね。怒ってるはずが、言葉を重ねるうちに、なぜかおもしろい方向に着地しちゃう。先天性お笑い芸人症候群。
 高校に上がったころから、瞬一は、あたしが同じ部屋にいると不機嫌になる。「勉強教えて」って頼むのも、超絶イヤそうな顔をする。難しいやつ。勉強で忙しくて余裕ないんだろーか。むやみに刺激しないほうが瞬一のためかな?
「あたし、今からゲームやるね。うるさくしないつもりだけど、うるさかったらゴメン」
「さっさと行け。すでにうるさい」
「おい弟よ、もうちょっとかわいげのある返事してよー」
「は? 弟?」
「んじゃ、勉強、頑張ってね!」
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