きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―
 わかったような、わかんないような。でもまあ、要するに。
「ラフさんの魂がゲーム世界にとらわれちゃってるってことですよね?」
「は? 魂?」
「あっ、間違ってました?」
「……非科学的に過ぎるわよ」
「でぁーっ、すみません! せっかく説明してもらったのにアタシ頭悪くてっ」
 くすっとニコルさんが笑った。
「いや、魂でいいと思うよ。シャリンが正確性を保ちたい気持ちもわかるけど、一般的に言って、魂のほうがイメージしやすい。ボクたちはこのサロール・タルで、ラフの抜け殻を連れて、ラフの魂を取り戻す旅をするんだ」
 ああ、ニコルさんってフォローの神さま。アタシもシャリンさん、両方の立場を守ってくれた。
「魂を取り戻す旅、ですね?」
 アタシが確認したら、ニコルさんはうなずいた。
「うん。魂は本来、肉体に憑きたがる。ラフの魂は何かの手違いで自分の肉体に入り損ねたようだけど、この広大なフィールドをふらふら漂っているわけじゃないらしいんだ。そうだろ、シャリン?」
「ええ。フィールドの背景みたいに情報の密度の低いところにはいないわ。ステージガイドやキーキャラクターのような高度なAIの領域に紛れているらしくて、ワタシのコンピュータのスペックでは、総当たり的な解析はできなかった」
 ラフさんの魂がサロール・タルにいるのは確実で、浮遊霊状態ではなくて、ステージ在住のAIキャラの背後霊になってる。木を隠すなら森って感じで、人がいっぱいの集合写真に写り込んだ背後霊はなかなか見付けられない。
 アタシはそんなふうに想像した。お化け扱いして申し訳ないから、口には出さない。別のことを尋ねる。
「じゃあ、ラフさんの魂がくっ付いてるAIキャラに出会うまで、とりあえずストーリーを進めていく方針ですか?」
「そうするしかないわ。だから、まずはアレを倒すわよ」
 シャリンさんがアレって呼んだのは、頭上に舞い降りてくる巨大な影。ギャァァァッス! と鳥系モンスター特有の甲高い声で吠えて、ずんぐり体型のモンスターが迫ってきた!
 パラメータボックスの形が変わる。音ゲーっぽい小ウィンドウが開かれて、バトルモード発動!
 ニコルさんの足下から魔力の風が吹き上がる。詠唱時間最短にまで効率化されたスキルは、ハイエストクラスには必須の補助魔法。
 “賢者索敵”
 アタシのパラメータボックスに敵さんの情報が開示される。
「ハン・ガルダっていうんですね。攻撃力めっちゃ高くて、ヒットポイントもかなりある!」
 うひゃあ、このバトル、長引くんじゃない?
 ハイアークラス以上ではお決まりのパターンだ。ストーリー開始以前に、強いのが1匹出る。初戦でいきなり戦闘不能とか、割とよくあるケース。
 アタシはビビっちゃったんだけど、シャリンさんは平然と言い放った。
「この程度なら、30秒ね」
 今、何とおっしゃいました?
「30秒っ!?」
「ワタシとラフで畳み掛けるわ。ニコルとルラは援護して。ルラ、BPMいくつならついてこられる?」
 BPMっていうのは、1分間に4分音符をいくつ打つかを表す音楽用語。バトルが音楽ゲームのピアズでは、スキルのBPMが速いほど威力が高いってことになる。
「240くらいまでなら行けます」
「そう。じゃあ、240でコンボ組むわよ。ついて来て」
「は、はい!」
 行けるって言ったけど、240はけっこうミスりますよー、実は。200超えたら、矢印の落下速度がほんとに鬼だ。
 ギャァァァッス! と吠えるハン・ガルダ。翼が生えた力士って感じの迫力満点なフォルムで、ギョロギョロお目めが不気味なことこの上ない。リアルすぎやしませんかね、このCG。
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