きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―
 目覚めたその日から、朝綺さんはリハビリを始めた。明るい目を輝かせてた。吐息みたいな声で苦情を申し立てて、みんなを笑わせてくれた。
「早くゲームやりてえ。ゲームやらせろ。禁断症状がすごい」
 朝綺さんの口元に耳を寄せて言葉を拾った界人先生が、泣き笑いしながら提案した。
「それじゃあ、朝綺、ラフが歩けるようになったら、結婚式しろよ。それを最初の目標に、リハビリ頑張れ」
 突拍子もない提案に、麗さんが慌てた。
「ち、ちょっと、おにいちゃん!」
「いいこと思い付くじゃねーか、界人」
「えっ、あ、朝綺!?」
「おれは本気だぜ、麗。リアルでも必ず挙げるけど、その前に、ピアズで式を挙げよう。ラフと結婚してくれ、シャリン」
 麗さんは、圧倒されたようにうなずいた。朝綺さんの回復スピードは、麗さんの予想より、はるかに速いペースだった。朝綺さんは手指を動かせるようになった。もうPCに触ることができる。
 ニコルさんがシャリンさんに腕を差し出した。もちろん、ニコルさんも正装だ。ぴしっと束ねた銀髪。ワインレッドのネクタイはアタシが選んだ。
「シャリン、行こうか」
 うなずいたシャリンさんが、ニコルさんの腕に、そっとつかまる。ヴァージンロードのエスコートは花嫁の父親の役目だから、今回は、兄であるニコルさんが代わりを務める。
 アタシはシャリンさんのドレスの裾を持った。花嫁さんの介添え役、やってみたかったんだよね。
 ちなみに、アタシのローズピンクのドレスは、シャリンさんに決めてもらったんだ。アタシ、迷っちゃって選べなくて。シャリンさんも迷ってくれたけど。ガールズトークな買い物、すごい楽しかった。
 オゴデイくんが花嫁の入場を告げる。ゆっくりと歩き出すニコルさんに導かれて、シャリンさんが足を踏み出す。アタシも同じ歩調で続く。
 オルガンの音色が響く。スローテンポにアレンジされた、原曲はロックの。
「Live on... 生き続けて 信じてるから」
 1歩1歩が、何気なくて特別で。美麗すぎるグラフィック、参列者はAI。だけど、こんなにリアルで温かいのが不思議。
 1歩1歩、近付いて、そして、ニコルさんがラフさんに声を掛ける。
「よろしくな」
「ああ」
 シャリンさんの手がニコルさんから離れて、ラフさんの腕へと渡る。シャリンさんがヴェールの奥で微笑んだ。
「ありがと、おにいちゃん。これからもよろしくね」
「麗……」
 しずしずと、ラフさんとシャリンさんが歩き出す。白い2人の後ろ姿が美しい。
「ステキですね」
 あたしは界人先生を見上げた。界人先生はコントローラを投げ出した。
「あぁ、もう、ダメだ。涙もろすぎるな、ぼくは」
 界人先生はメガネを外して目元を覆った。長い指の隙間から涙があふれる。口元は微笑んでる。
 あたしも鼻の奥がツンとした。視界がじわっと熱くなって慌てる。せっかくの結婚式、ちゃんと見ていたいのに。
「界人先生のせいで、あたしまで泣いちゃいますっ」
「ごめん」
 ささやき交わしながら、幸せな2人を見守る。
 あたしたちは麗さんの仮眠室に居させてもらってる。麗さんは朝綺さんの病室にいる。照れくさいから別々での場所で、ってことになった。確かに界人先生、泣いちゃっててどうしようもない。
「ゲームでさえ、これなんだよ。現実の結婚式が不安だな」
「現実の結婚式かぁ。楽しみじゃないですか!」
「うん。笑音さんもぜひ出席してよ」
「えっ!? あたし行っていいんですか!?」
「何年先になるか、わからないけどね」
「そんなに長くかかんないと思いますよー?」
 朝綺さんはガッツがあるし、界人先生と麗さんがついてるんだし。きっと朝綺さんは、すぐに立てるようになる。着替えも食事も自力でできるようになる。歩いたり走ったりできるようになる。
 ねえ、界人先生。あたし、最近わかったんです。ほんとの笑顔になる方法。掛け値なしに元気な心でいる方法。
 大好きな人のそばにいる。大好きな人と支え合う。それだけで、強く優しくなれるんだ。
 それとね、界人先生。あたし、やっぱり思うんです。
 アタシはニコルさんが大好きです。あたしは風坂界人先生が大好きです。

【了】

respect for:
井上靖氏『蒼き狼』
杉山正明教授『遊牧民から見た世界史』他

BGM:
BUMP OF CHICKEN『ラフ・メイカー』
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