ハロー、マイファーストレディ!

一人で臨んだ婚約会見は、我ながら会心の出来だった。

先日のスクープ写真が功を奏したのか、会場として借りた自由進歩党の党本部の会議室にはマスコミが押し寄せ、着席の予定を急遽変更して、立ったままの囲み取材になった。

「真依子さんは高柳議員にとって、どんな存在ですか?」
「互いに理解し合い、共に高めあえる存在ですね。政治家としても、一人の人間としても彼女と出会えたことをうれしく思います。」

時折照れたように微笑みながら、ゆっくりかつはっきりと言葉を紡ぐ。
すべてはリハーサル通りだ。

「真依子さんのどのようなところに惹かれたのでしょうか?お写真を拝見すると、とてもお綺麗な方ですが…」
「一目見た時から惹かれたのは確かですが、どちらかと言えば見た目よりも彼女の内面に強く惹かれました。意志が強くて、プライドを持って仕事を頑張っているところとか。それでいて、実はとても家庭的なところもあって、一緒に居るととても安らげるんです。」
「まさに、骨抜きという感じですか?」
「そうですね。恥ずかしながら、彼女に出会う前の生活には戻れそうにありません。」

大げさに煽るような質問を、あっさりと認めて微笑めば、こちらに向けられたカメラのシャッターが一斉に光る。
矢継ぎ早に投げかけられる質問全てに、丁寧に甘すぎる答えを返して微笑んだ。

「彼女と居ると、自分の新たな一面に出会えるというか。今までにはとても考えられなかったようなことも、彼女の為なら出来てしまう気がします。」

発言の全てはリハーサル通りだが、その言葉が全て嘘や脚色にまみれたものどはない。

婚約の印に彼女の両親に倣って時計を贈り、長年音信不通だという彼女の叔父に連絡を取って仲を取り持った。
その全く俺らしくない行動は、秘書の透を驚かせた。
今までの俺なら、もっと合理的に割り切って行動していたはずだ。

婚約していることをアピールするためなら、指輪の方が分かりやすくて最適だし。
わざわざ忙しい合間を縫ってまで、叔父夫妻と食事をすることもない。

彼女の顔を思い浮かべると、どうしてか、そんな“らしくない”行動に出てしまうのだ。
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