ハロー、マイファーストレディ!

五番の部屋の前で立ち止まり、コンコンと扉をノックする。

「はい、どうぞ。」

さわやかな返事の主は、VIP専用ナースではなく、この一般病棟担当の無愛想で有名な私をわざわざ指名してきた、相当な物好きだ。

「失礼します。」

声を掛けてから中に入れば、 高級そうなスーツをびしっと着こなし、豪華なベッドの上に長い足を組んで腰掛けた男が、こちらに視線を向けるのが見えた。

「やあ、ご苦労様。」

心にもない言葉を発しながら、嘘くさい微笑みを顔に貼り付けた男に、冷ややかな視線を向ける。

「先生は、お元気そうで何よりです。」

これは、嫌みだ。どっから見ても健康そのものの成人男子の腕に、不必要な点滴の針を刺すのが、今から自分に課せられた仕事だと思うと、自ずと溜め息が漏れた。

「下の名前しか覚えてなかったけど、言ってみるもんだな。」
「うちの病院はキャバクラじゃないので、看護師の指名なんてサービスは致しておりません。以後の指名はお断りしたいんですが。」
「そうなの?でも、ホラ。何ていったっけ?あの看護師泣かせの血管の何とかさん。あの夜、君を指名してたじゃないか。」
「ああ、あの方は特別です。元々血管が細い上に、高齢で脆くなってて刺さりにくいんです。」
「じゃあ、俺も。血管細くない?」

ジャケットを脱ぎ、シャツの腕を捲って差し出された腕を見ると、くっきりとしっかりとした静脈が浮き出ていた。

「いえ、全く。お手本みたいな血管ですよ。新人ナースの練習台に貸してほしいくらいです。」
「そうかなあ?よく、健康診断の採血は失敗されるけど。」
「みんな、その嘘くさい笑顔に見とれてるんじゃありませんか?」
「そうか、じゃあやっぱり君を指名しないとね。」

そうにやりと笑う口元は明らかに私をからかっていた。
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