ハロー、マイファーストレディ!

「その、この前は悪かった……」
「別に気にしていませんので、大丈夫です。」
「そうか…」
「ええ、お構いなく。」

心の中に芽生えたほのかな感情を追い払うため、私はいつも以上に素っ気なく答えた。
あのパーティーの日から数日後、地元への挨拶回りで、再び顔を合わせた征太郎は、対面してすぐに申し訳なさそうに口を開いた。
しかし、私の素っ気ない返事を聞くと、安心したようにひと息ついてから、すぐにいつもの自信に満ちた表情を取り戻した。
おそらくこの男にとっては、あの出来事もさほど気に留めておくようなことではないのだろう。悪かった、という一言があっただけマシなのかもしれない。

所詮、この男にとって私は契約を結んだ相手というだけ。
政治のための道具、結婚するのに都合のいい女としか思われていないのだ。
一時、子どものような嫉妬心を向けられたからといって、変に私に意識されても困るだろう。

おかしな考えを抱いてしまわないように、征太郎に対してはいつも通りの態度を崩さないよう心がける。
それでいて、今日は地元関係者に婚約者として顔を売る大切な機会だ(と、大川さんに聞いている)。周囲には精一杯の笑顔(と、言ってもおそらく一般的に見れば控えめな方だろう)を振りまきつつ、足りない愛想は積極的に手伝いを買って出ることで補う。
スーツの袖を捲って、借りたエプロンを着け、焼きそばの屋台を手伝えば、目の前の仕事だけに集中できた。
元々、じっとしているよりは動いている方が好きだ。看護師の仕事も体力的に辛いと思うこともあるが、オフィスで座って働くよりは、何倍も自分に向いていると思う。

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