ハロー、マイファーストレディ!

それでも、彼らがそんな非現実的な計画のために連れてきた女性を一目見た瞬間、私の気がかりは杞憂に終わる。

『内海真依子です。よろしくお願いします。』

背筋をピンと伸ばして、やや硬い表情で挨拶をした、見目麗しい彼女からは、芯の通った性格が透けて見えるようだった。
過酷な過去にも負けることなく、彼女が作り上げた真面目で実直な人間性は、計画に否定的だった私をすぐに懐柔した。
彼女の、まっすぐにこちらを見つめる意思の強そうな視線や、こちらの意図を汲んでハキハキと受け答えをする飲み込みの良さは、まさに政治家の妻に向いている。
初めて会った瞬間に、私は内海真依子という人間を、すっかり気に入ってしまったのだ。

そして、もう一つ。
彼女の気高く凜とした雰囲気が、どことなく征太郎の生みの母に似ていたのも、私が彼女に並々ならぬ期待を寄せた理由だった。

三十年前、苦渋の決断で高柳家を去った母に、征太郎はついに一度も会いたいと言い出さなかった。もはや、幼い日の母の記憶すら残っているのか怪しいものだから、意識的に似ている女性を選んだ訳ではないだろう。
おそらく、彼は無意識に選んでしまったのだ。母によく似た女性を。
もしこれが、単なる偶然だというのならば、この際それでもいいだろう。私はその偶然に、心の底から感謝するに違いない。


要するに、私は。

もう今から四十年近く前、愛する女が目の前から消えて自棄になる友人を、止められなかった責任と。
その結果、友人の愚行に苦しむことになった彼の妻を、助けられなかった無念を。
彼らの息子に、何とか人並みの幸せな人生を歩ませることで、帳消しにしたいのだ。

真依子が笑う度、彼女に紀枝の笑顔を重ねて、思わず嬉しくなる。
征太郎の彼女を見つめる視線が、次第に熱を帯びていくことに、そっと安堵した。


未来を選べと言いつつ、
過去に一番固執していたのは、
私の方かもしれない。
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