ハロー、マイファーストレディ!
彼のことを愛している自分が居る。
それは、もう認めようが認めまいが変えられない事実だ。
でも、私のお腹に彼以外の男の子どもがいることも、紛れもない事実なのだ。

彼がたとえ善意の気持ちから、私の窮地を救おうとしているのだとしても。
さらには、私にとってこれ以上ないくらいに都合のいい話だとしても。
簡単に甘えるわけにはいかないし、そうそう上手くいくとも思えない。

なのに、それとこれとは話が別だと主張する私に、彼は強気で説得を続ける。これほどまでに義理堅い男だとは知らなかった。

「君の子どもなら、ちゃんと愛せそうな気がする。だから、俺の子どもとして産めばいい。君も知ってのとおり、そうでもしなきゃ、俺に子どもは出来ない。」

彼が子どもを認知をするということは、嘘をつくということだ。
しかし、この子が産まれてくるまでに法律上の夫婦になれば、当然に子どもは谷崎の子どもとなる。彼は、それを利用しようと言っているのだろう。
あれほど望んだ、彼の子どもを産む唯一のチャンスなのかもしれない。それでも、生物学上は彼の子どもではない。結局は世間に嘘をつくのだ。
戸惑う私に、彼はたたみ掛けた。

「子どもは、ちゃんと愛し合う両親の元に生まれて、育てられるべきだ。」

彼のこれまでの人生を思えば、その主張はもっともだ。私も仲の良い両親に育てられたことに、感謝しなくてはいけないと思っている。
それでも、今の私は彼の提案には乗れないのだ。

「両親がちゃんと愛し合ってる、ならね?」

この話はこれでおしまいとばかりに、語気を強めて言い返した私に、彼はニヤリと笑った。


「じゃあ、決まりだ。今夜すぐに、お父さんに話をしよう。」

その言葉に唖然とする私を見て、彼はまたクスクスと可笑しそうに笑って言った。


「愛してるよ、瞳ちゃん。」


私は、本当に驚いたときにも人は言葉が出ないのだと知った。

そして、本当に嬉しいときには、涙が止められないことも知ったのだ。
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