ハロー、マイファーストレディ!

出迎えた大統領夫妻に笑顔で応える。一応通訳を付けてはいるが、二人とも英語は堪能だ。征太郎は子どもの頃からの英才教育で挨拶程度なら数カ国語は話せたが、真依子は結婚当初は英語すら全く話せなかった。

征太郎が政治家として研鑽を積んできたこの十二年の間、彼女もまたファーストレディになるための努力を惜しまなかった。看護師の仕事の傍ら、政治家の妻として征太郎を支え、さらには語学だけでなく世界情勢や社会問題についての知識も習得した。類い希なる美貌だけではなく、夫のために努力を惜しまぬその姿勢は、度々マスコミにも取り上げられて、多くの賞賛を浴びることとなる。そして、そんな彼女の存在が、もうあと何年か先だろうと思われた征太郎の首相就任の時期を早めたのだ。

高柳征太郎をこの国の首相に、と同じくらい大きな、高柳真依子をこの国のファーストレディにという声。
その声に押されて、かつてないほどの高い支持率で高柳政権はスタートを切った。
国民の絶大なる支持と、その父親譲りの外交手腕は海外でも高い注目を集めており、今回も初訪米ながら、大統領直々に空港で出迎えを受ける厚遇ぶりだ。


数人のセキュリティポリスに混じって、白髪頭の小柄な男性が二人に熱い視線を送っている。俺が事前準備で一日早く渡米したため、今回特別に首相帯同をお願いした大川さんだった。

現在も地元秘書として高柳征太郎を支える彼は、今日から二週間の長期休暇に入る。議員秘書になって半世紀近く、ほとんど休んだことのない彼が、初めて取る長期休暇だった。
このまま、あとから民間機でボストンにやって来る美佐枝さんと合流して数日観光してから、残りはハワイでゆっくり過ごす予定だという。ハワイではおそらく征太郎の父、聡一郎と積もる話でもするつもりなのだろう。

聡一郎は相変わらず、ハワイでの暮らしを楽しんでいる。ただ、噂されていた若い愛人ではなく、別の女性と一緒に暮らしているようだ。
征太郎の首相就任パーティーで久々に公の場に姿を現した彼は、同年代と思しき日本人女性を伴っていた。今では健康そうな彼女も、実は不幸な事故に見舞われ、数年前に奇跡的に目覚めるまで何年間も意識不明の状態だったというから驚きだ。
聡一郎は、さすがに4度目の結婚はしないが余生は彼女と静かに過ごす、と笑っていた。さしずめ、恋多き男が晩年の寂しさを紛らわすために見つけた同居人といったところだろうか。それでも、二人はまるで何十年もそうしていたかのように肩を寄せ合い、時折仲睦まじく囁き合っていた。
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