ハロー、マイファーストレディ!
「でも、これだけは自信を持って言える。」

再び、聡一郎氏が語りかける。

「きっと、征太郎はあなたのことを不幸にはしません。」
「どうして、ですか?」
「私だから、分かるのです。」

またしても、煙に巻かれたような気分になる。
それでも、その瞳には往年の政治家としての説得力が宿っていた。

「こんな親でも、私はあいつの父親なので。」

照れくさそうに笑いながらも、その顔はどこか誇らしげだった。

「だから、征太郎をよろしくお願いします。」

そう言って、私に向けてもう一度微笑んだ聡一郎氏は、すでに私の知る曲者政治家の顔ではなかった。
それは、ただ息子の人生を思う、一人の“普通の”父親に見えて、私の胸にはチクリと小さな音を立てて痛みが走った。
おそらく、今回の帰国もただの気まぐれなどではなく、報道や噂を耳にして、息子にわざわざ会いに来たのだろう。

「こちらこそ。至らぬところが多々あるかと思いますが、精一杯努力いたします。どうか、末永くよろしくお願いします。」

思わず口から出たのは、本心よりも何倍も殊勝な言葉だった。
でも、不思議と嘘をついているという感覚はなかった。

もう一度視線を合わせた“父”は目を細めて笑っていた。



この男の妻になるということは。

たくさんの善良な人たちに対して、嘘をつくことだ。

そして。
私がこの世で一番嫌いな政治家と家族になるということだ。


私には、ほんとうにその覚悟ができているのだろうか。
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