ハロー、マイファーストレディ!

まさか、大人になってまで、純粋にそのために総理大臣を目指しているわけではないが、その出来事がきっかけになったのは間違いない。

母が円満離婚に際して、父に突きつけた条件について俺が知るのは、それから10年も後のことだ。

俺の親権も放棄し、
慰謝料も請求せず、
母が父に求めたのは、
父が、俺以外に絶対に子供を設けないことだった。

そのため、父が避妊のための手術を受けていたことを知るのは、さらに五年後、成人してからだった。

確実に、俺が高柳家の跡継ぎになれるように。

それが母の唯一の願いだったことを知れば、俺の政治家として一番になるという決意はより確固たるものになっていった。

政治家になってから、その後の母の消息について調べさせたから、離婚した後、母が離れた土地で新たな家庭を持ったことも、俺には血が半分つながった弟と妹がいることも、元気で暮らしていることも知っている。

俺が総理大臣になったところで、母が喜ぶかは分からない。
そんな昔の約束すら、覚えて居るのか怪しいものだ。

だから、俺がまだ一番を目指しているのは、半分くらいは意地で。
残りの半分は、純粋にこの国を何とかしたいと思うからだ。

政治の世界に入り、この国が直面している厳しい現実を知る度、何とか少しでも問題を解決したいと感じるようになった。
財政は逼迫して、人口も減少する一方で、国民の格差は広がるばかり。
今、若者が明るい未来を描けないのは、彼ら自身の所為ではない。
全ては不甲斐ない政治の責任だ。

綺麗事だけでは状況を打開できないことは百も承知だ。
この国を変えるためには、それが出来るだけの力が要る。
だから、どんな手を使ってでも一番になる必要があるのだ。

たとえ、それが一人の女の人生を狂わせたとしても、だ。
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