初恋も二度目なら
「なんだ」
「タクシー代ください。帰ります」

よく見ると、部長は私のバッグとジャケットも持ってきてくれていた。
靴は隣のロッカーに入ってるし、私一人このまま抜け帰っても、支障はないはず。
それに、拭いたとはいえ、まだ濡れてるズボンであの場に戻るなんて・・・あ、だから部長はバッグとジャケット、持ってきてくれたのかな。
やっぱり気が利く・・・じゃなーいっ!

そもそも私のズボンにお水かけたのは、部長(このひと)じゃないの!

部長は案外あっさりと私の要求を呑んでくれて、私に1万円札を1枚くれた。

「これで足りるか?」
「え。そんな、多すぎ・・・です」
「服のクリーニング代も兼ねてだ」
「いやぁ。それでも多いかと・・・」
「もし残れば、服でも食べ物でも、おまえの好きなものを買え」
「・・・部長、実は酔ってるでしょ」
「かもな。久しぶりにいい気分だ」
「・・・・・・」

これ以上部長と話しても、会話がかみ合わないと思った私は、すぐに靴を履いた。

「部長。ジャケットとバッグ・・・」
「そのまま」

部長は私にジャケットを着せてくれた。
こういうのって、やっぱりアメリカ支社に行ってた間に身につけた、ジェントルマンのマナーみたいなものなのよね?

でもなんか近くて・・・落ち着かない。


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