初恋も二度目なら
さらにすごいことに、それ以来、長峰さんは、必ず私を精算指名してくるようになった。
結果、自然と会話をするようになり・・・。

私の名字の「卜部」すら知らなかった長峰さんは、私が「小さな夜の子と書いて“さやこ”」という名前だと知ってくれた。
緊張して目を合わせることがなかなかできない私に、「話す時は相手の顔を見る。今は俺と話してんだから、俺の顔を見ろ」と何度も注意し・・・。

「だ、ダメです・・・カッコよすぎて長峰さんのことを直視できませんっ!」と本音を言ったら、長峰さんは涙を流すほど、笑いウケていた。

きっと長峰さんは、「カッコいい」とか「イケメン」という賛辞を普段聞き慣れているから、私がそういうことを言っても、ごく当たり前のこととして、受け入れていたと思う。
でもその後、「明日は俺と一緒に晩メシだ」と言われて、私は顎が外れそうになるくらい、ビックリしてしまった。

長峰さんは、男性に免疫がない私を、からかってるだけなのかもしれない。
そうよ。スターみたいにカッコいい長峰さんが、こんな・・・大柄でおデブな私なんかを相手にするはずがないでしょ?
大体、一緒に並んで歩いたりしたら、それこそ美女と野獣の逆バージョン。
ということは私・・・長峰さんの引き立て役になるじゃない。

「なんだ。じゃあ・・・今までどおりってことじゃないの。あ。でも男の人を引き立てる役は初めて・・・」

中学生の頃からずっと、私は可愛い友だちをますます可愛く見せる、引き立て役だった。
短大を卒業し、この会社に入って2・3年くらいは、何度か合コンにも連れて行ってもらった。
だけど、あくまでそれは、他の子たちの引き立て役、又は足りない人数を穴埋めする、代員的存在だった。
まさに壁の花・・ううん。
大柄な私は、壁そのものと言える存在だった。

でも、初めて長峰さんと一緒に晩ごはんを食べた後、帰るときにキスされて・・・。

「あぁ思ったとおりだ。小夜・・おまえが髪おろしたところを見るのは、俺だけ・・・いや。俺がおまえの髪をおろす。俺以外の他人には絶対触らせるなよ」
「う・・・は、い・・・」

男の人と二人っきりで晩ごはんを食べたのも、キスされたのも、それ以上のことをしたのも、私にとっては全て初めての経験だった。
しかも相手は、私が生まれて初めて好きになった、社内で一番モテる男の長峰さん。
まさかそんな彼とこの私が・・・つき合うことになるなんて、当時25歳の私は、思ってもみなかった。

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