セカンド☆ライフ

ここから

朝、目を覚ますと、朝食の香りが鼻を突く。
寝ぼけた頭を空腹感が支配する。
部屋を出て、階段を降り、トイレを済ます。
洗面台の前に立つと、その大きな鏡に寝ぼけた顔の自分が映る。
男の歯磨きなど雑なものだ。
駆け足で歯を磨き、顔を洗い、簡単に頭の寝癖を直す。

『おはよう唯里』

『んん』

母があくせくとみんなの朝食の支度をしている。
父はダイニングのテーブルで☕コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。

『お父さん!いつまで新聞読んでんの!?もうご飯できるよ!?』

『んん』

『ほんっとうちの男共は愛想がないこと!』

『んん』

父は適当に返事をしている。

俺があくびをしながらテーブルに着くと、けたたましい足音が背後の階段を駆け降りてくる。

『あぁぁぁぁ!母さんあたしのお気に入りのパンツどこ!?』

朝から下品な話をしながら姉がダイニングに入ってくる。

『タンスに入ってないの?』

『ない!唯里あんた盗んだ!?』

『盗まねぇよ…』

『洗濯にだしてんじゃないの?』

『そうだっけ?最悪ぅ…』

姉が乱暴に俺の隣に座る。

『はいご飯できたよ!お父さん!ごぉはぁん!』

『んん』

無感情に新聞を畳む父。
エプロンを外しながら父の隣の椅子に母が座る。

『はい!食べよ!』

『いただきます』

ご飯、目玉焼き、ウィンナー、サラダ、納豆、味噌汁…
ザ・朝食。

『唯里こないだのテストまだ返ってこないの?』

『まだ』

『点数悪かったからこっそり捨てたんじゃないの?』

姉がニヤニヤしている。

『マジでまだ返ってきてねぇだけだよ』

『どうだかね〜』

『うっせぇなぁ』

いつもの朝の光景。
一日の始まりとしてはあまりにも平凡なオープニング。

両親は大恋愛の末、駆け落ち同然に結婚をしたそうだ。

父、水辺 万里(ミナベ バンリ)45歳。
薄くなり始めた髪を気にする水辺建設二代目社長。

社長と言っても従業員4人アルバイト5人の小さな土建屋だ。
肩書きとは裏腹なしがないオッサンだ。

母、水辺 嘉恵(ミナベ ヨシエ)42歳。
専業主婦。
公務員一家の箱入り娘だったが、地元最大の暴走族のリーダーと大恋愛の末に結婚。

きっとこの二人の恋物語で小説が一冊書けるだろう。

姉、水辺 千里(ミナベ チサト)21歳。
大学生。
弟が言うのも忍びないが、容姿端麗、成績優秀なマドンナ系。

性格は至ってガサツ。
普通に屁をこくし鼻もほじる。

どこにでもある普通の家庭。
なんの事件もない平穏だけが取り柄の、ごくごく普通の自慢の家族だ。

『いってきます』

『唯里!傘忘れてる!』

『あぇ…いいよ別に…』

『いいから持っていきなさい!』

『へいへい』

『車に気をつけてね!』

『小学生か…』

玄関を出ると今にも雨が降り出しそうな曇り空。
傘を持たせた母の判断は正しい。

(今日は歩くか…)

いつもなら自転車で通学するところだが、雨に降られると厄介だ。
学校まではそう遠くはない。
歩いても遅刻するような時間でもない。

住宅街を抜け、国道沿いを歩く。
この時間は学生やサラリーマンが駅に向って慌ただしく行き来する。

(歩いて行ける学校を選んだ俺は勝ち組だな、高校なんて質より立地だ!)

商店街へと向かう角を曲がると、案の定降り出した。

(このくらいなら傘さすほどじゃないな…学校までもてばいいけど)

学校まであと数百メートル。
国道から繋がる大きな交差点にさしかかり、今にも落ちてきそうなほどに重い灰色の空を見上げた。

(今日もいつも通りの日常が始まる)

いつも通り…そう、一つだけ…

俺が死んでしまうこと以外は…
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