セカンド☆ライフ
翌朝、待ち合わせの時間に駅に来たが、横峰はまだ来ていないようだ。

純流さんの新スキル講習会は朝まで続いたが、肉体のない俺には疲労感はない。
便利ではあるが、人として何かを失ってる気がしなくもない。

(スキルの理屈は理解できたけど…本当に上手くいくのかな…)

始発の時間を過ぎても横峰は来ない。

(おかしいな…寝坊…かな…?)
《横峰さ〜ん、水辺だけど〜》

横峰からの返事はない。

《横峰さぁぁぁん!聞こえてるぅぅぅ!?》

《…な…く…》

《横峰さん!?》

《みな…くん…た!》

《え?》
(なんだろ?ノイズが酷い…ノイズ…!?)

《横峰さん!?どうしたの!?》

《…のほ…の…ら通り…つけた!》

《横峰さん!?落ち着いて!よく聞こえない!》

《……………いかけ…………》

《横峰さん!?横峰さん!?》

(クソっ!ノイズしか聞こえなくなった!)

気配は感じない。
近くにはいないようだ。

(ダメだ見つかんねぇ…)

俺は昨夜の純流さんの言葉を思い出していた。

……………

『セカンドはイメージさえできれば大抵のことはできる』

『あ、それ横峰からも聞きました』

『そっか、じゃ細かい説明は省くね』

『はい』

『大抵のこと、と言っても、自分以外の存在への直接的な干渉はできない』

『それも体験済みです…』

『ダメだよ女の子にエッチなことしちゃ♪』

『見てたんですか!?』

『したんだ…』

(自爆か…)

『まぁそれは置いといて…基本的には干渉できないけど、例外もある』

『触れるんですか!?』

『うん…まぁ理論上は不可能ではない…かな…?』

『マジか!なんか急にやる気出ましたよ俺!』

『それは何より…とは言え、触るとなると本人以上にその人をイメージできないと無理だね』

『道は遠いな…』

『そうだね、本人でさえ自分の体の隅々まで完全にイメージするのは困難だからね』

『そうなんですか?』

『例えば唯里君は自分の後ろ姿を鮮明にイメージできるかい?』

『あ…』

『そういうことだね、立体物としてあらゆる角度からイメージできないと触ることはできない』

『じゃぁ実質不可能じゃないですか…』

『言ったろ?理論上の話だって』

『言ってましたね…』

『でだ、じゃぁ実際どの程度なら実現可能なのか?って話なんだけど…』

『はい…』

『そうだな、例えば唯里君は今、横峰さんとフォローし合ってるよね?』

『はい』

『フォローって言うのは、表層的な意識の共有なんだよね』

『表層的?』

『そそ、深層的には繋がっていない、だから思考を読んだりはできない、もっとも、慣れないうちはチャンネルの使い分けができなくて思考が漏れちゃうこともあるけどね』

『はい…漏れてました…』

『ダメだよエッチな想像ばかりしてちゃ♪』

『してない!いやマジで!』

『つまらないな…』

(どこまで本気なんだろうこの人は…)

『さてここからが本題』

『うっす』

『一人の人間を集中的に意識することで、深層の部分まで共有できるようになる、これを【リンク】と呼んでる、べん…』

『便宜上ですね』

『言わせてよ…』

(本当にどこまで本気なんだ…)

『まぁいいや、リンクのレベルまで縁を深めると、限りなく本人に近い次元で意識を共有できる』

『本人に近い?』

『意識の共有と言うよりも、同化に近いかも知れないね』

『それってヤバくないですか?』

『どうしてだい?』

『いや、よくわかんないけど、同化しちゃうと自分が消えたり…とか?』

『そうだね、相手と自分の自我の強さのバランスがとれてないと、弱いほうが取り込まれちゃうことも有り得るよ』

『ヤバすぎじゃないですか』

『その人の中で生きる、と考えればそれはそれで有りと捉える人もいるだろうさ』

『あぁなるほど、考え方しだいか』

『そそ、セカンドの世界は何事も考え方しだいなんだよ』

『ってことは意図的に自我のバランスをとり続ければ…』

『うん、理論上は同化することなくリンク状態を維持できる♪』

『おおっ!』

『10分以上できたって話を聞いたことないけどね♪』

……………

(10分あればじゅうぶん!やってみるか…リンクってヤツ!)

目を閉じ、横峰の気配に全神経を集中する。
自分の意識が溶けていき、代わりに横峰の意識が流れ込んでくるような気がする。

(フォローを拡散するイメージ…横峰…どこだ…横峰!!)
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