残業しないで帰りなさい!

課長は私に消されることを警戒するように、一歩離れた。

そんなことしなくてもいいですよっ!もう消しませんから!

「何考えてんの?」

「消さないから、警戒しなくてもいいです!」

「あ、ホント?良かった」

にっこり笑って、またぴょんっと戻ってきた。……なんかとっても楽しそう。子どもみたい。

わかりにくいとはいえ、ワイシャツにリップの色なんか付けて人事課に戻ったら、きっとすぐに見つかって突っ込まれると思うけど。

「人事課のみなさんに気が付かれたら、どうするんですか?」

「いいの、いいの!言わせておけば」

またニヤリと笑う課長。
まさか課長……、突っ込まれるのを狙ってる?

……そうだとしたら、人事課のみなさんのことを悪趣味な連中なんて言ってたけれど、あなたが一番悪趣味です。

「何考えてんの?」

「……課長は悪趣味、です」

「嫌だなあ。イタズラ好きと言ってほしいね」

開き直った?

でも。
そんな悪趣味、もといイタズラ好きなところにまでなんだか惹かれてしまっている。

私はあなたに夢中です。
どんな課長でも、私はきっと好きになる。

「何考えてんの?」

課長、その台詞も楽しんでますね?

「秘密です」

「……もしかして、嫌いになった?」

急に寂しそうな顔。
少しずつわかってきました。その顔、わざとですね?

「嫌いになんて、なりません」

「良かった」

すぐにっこり笑う。
やっぱり!嫌いになんてならないの、わかってるくせに寂しい顔をしたりして。
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