残業しないで帰りなさい!

車へ向かう帰り道、翔太くんがギュウッと手を握ってきたから、聞いてみた。

「翔太くん、どうして優香さんとあんな感じになっちゃったの?」

「うーん、やっぱりあんなこと聞いたからだろうね。俺の聞き方も感じ悪かったし、それに優香さんって、負けず嫌いなんじゃないのかな?仕返しされた気がする」

確かに優香さんは負けず嫌いだけど……。

「翔太くん、優香さんのこと、許せないの?」

「うん、君を傷付けたからね」

「でも……もう許してほしいな。本当にお世話になったし、翔太くんのおかげでどうして優香さんがあんなことを言ったのか、理由もわかったし。おかげで私、すごく自由になれた気がするの」

「うん……」

「翔太くんが聞いてくれたからだよ?……ありがとね」

本当に良かったんだよ?翔太くんが聞いてくれなかったら、きっと一生理由はわからないままだったもの。

翔太くんは考え込むようにうつむいた。

「俺さ……、煙草やめるよ」

「え?」

唐突にどうしたの?

でも翔太くん、そもそも私と一緒にいる時は絶対に煙草吸わないよね?「香奈ちゃんに煙を吸わせたくないから」なんて言って。
だから、今だってほとんどやめてるようなものだよね?

「どうしてやめるの?」

「長生きしたいから」

あ……。
もしかして優香さんが言ったこと、気にしてるの?

「男の方が寿命は短いし、俺は香奈ちゃんより11も年上だから、どうやっても俺の方が先に死んでしまうけど、それでもできるだけ君と一緒に長い時間を生きていたいんだ」

「うん……」

私だって翔太くんとできるだけ長く一緒にいたい。

「俺が死んでも、香奈ちゃんが寂しくないって思えるくらいまで長生きする」

「翔太くんが死んじゃったらどんなに長生きしても寂しいよ」

それを聞いたら翔太くんは少し考え込んでしまった。
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