残業しないで帰りなさい!

「そういえばさ」

優香さんが突然ニヤリとした。

「今香奈ちゃんが25で、翔太さんが36なんでしょ?だとあれだね、俊夫さんが死んだ時の私と俊夫さんの年齢と一緒だね」

「……」

言われてみたら、本当にそう。お父さんは36歳の時に死んでしまった。今考えると、すごく若いなあ。
翔太くんって、あの時のお父さんと同じ歳なんだ……。

翔太くんの横顔を見上げたら、翔太くんがあの時のお父さんみたいに死んでいなくなってしまう寂しさに襲われて、せっかく止まった涙がまたこぼれてきた。

「俺はっ」

珍しく翔太くんが少し大きな声を出した。

「俺は、長生きしますから」

「ふーん、せいぜいがんばってね」

睨みつけるように言った翔太くんに、優香さんはあしらうように答えた。

二人はピリピリして、私はグスグス泣いて、和彦さんは困ったようににこにこして、なんだか変な雰囲気。

そこにドタドタと心愛ちゃんが「ママの絵描いたー」と走って来て、場が一気に和んだ。

ナイス!心愛ちゃん!

翔太くんと優香さんは、結局最後まで打ち解けなかった。うーん、困ったなあ。

帰り際、優香さんはひらひらと手を振った。

「結婚式には呼ばれてあげる。でも『お母さんへ』なんて手紙読むのはナシだからね」

「はい」

そうは言ったけど「お母さんへ」じゃなくて、「優香さんへ」って手紙は読もうかなって思っている。でもそれは、当日まで秘密なのです。

だって、本当に感謝してるんだよ?
優香さんは照れ屋さんだから、私も普段は言わないけど。
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