嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

「おっかしいなー。前に見た時は、何も言えないタイプかと思ったんですけどね」

 私ってそんな風に見えるの?それに、前に見た時?前にもお会いしましたっけ?

 私が首を傾げると、阿部さんは小さく肩をすくめた。

「あらら、ざーんねん!まあ、クールな部長の焦った顔を見られたから、良しとしましょう」

「良くない!」

「いいじゃないですか、ちょっとくらい楽しんだって。独身は俺だけだからって、こんな役やらされて、俺だって癒しが必要なんですよ」

「だからって人の妻に触るな!」

「部長、想像以上にヤキモチ妬きですね?しばらく楽しめそうです」

 阿部さんは人の悪そうな微笑みを残して、ヒラヒラ手を振ると去っていった。

 上司を上司とも思わぬ態度。それも冷酷な雰囲気の隼人さんに絡むなんて。ちょっと珍しいかも。

「雪菜」

「はい?」

「……許せない」

「えっ?」

 隼人さん、予想はしてたけど、ご機嫌斜め?

「他の男に手を握らせるなんて、許せない」

「……」

 うわあ、やっぱり。これは大変。

 でも、私だって触られたくて触られたわけじゃないもん!

「私だって嫌でした!」

「でも、簡単に握らせただろ?」

「簡単になんて握らせてません。勝手に握ってきたんです!」

「避けようと思えば避けられただろ?」

「避けられませんでした!」

「雪菜、……なんか反抗的じゃない?」

「隼人さんが理不尽でおかしなことを言うからです」

 隼人さんはムーッと口をつぐんだ。

 やきもちを妬いてくれるのは嬉しいけど、私の気持ちはいつだって隼人さんのそばにあるのに。そんなに怒らないで?

「他の人になんて、触られたくありません。私が触れてほしいのは隼人さんだけです」

 寄り添って見上げたら、隼人さんは不機嫌なフリをして目をそらしたけど、まんざらでもない顔をした。

 そんな隼人さん、可愛いな。そんな反応、嬉しい。なんだかキュンとしてしまう。

 私の気持ちは本当なんだよ?隼人さん、わかってる?
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