【完結】セ・ン・セ・イ
彼女の秘密
いつの間にか本当に仲良くなってしまった木嶋に引きずり込まれるようにして、瀬戸朱莉は次第に俺の属するサークルのメンバーに打ち解けていった。

フットサル以外の活動――つまりは遊びへの誘いにまさか彼女が乗るとは思っていなかった俺は、「行きたい」という言葉を聞いて耳を疑うことになる。


どこからか『ご褒美』で授業が休み(課外授業)になったことを聞きつけたメンバーの誰かしらが、海岸バーベキューだの夏祭りだのと勝手に俺を強制参加にした企画を立て、いつもそれは俺の知らぬ間に朱莉の耳に入っていて、そして彼女の口から聞かされる。

「今回のご褒美は、明日のバーベキューがいいな」といった感じに。


俺は朱莉と木嶋がいつの間に連絡先を交換したのかも知らなかったし、俺が知らないサークルの予定を朱莉から聞かされた時にはさすがに度肝を抜かれた。

いつだったか木嶋に、どんな話をしてここまで仲良くなったのかと何気なく聞いてみたところ、「恋バナとか、兄弟の話とか」と含み笑いが返ってきた。

女同士の恋バナとやらにさすがに首を突っ込むわけにはいかないが、朱莉に兄弟などいないというのに、更にワケが分からない。


相変わらず授業においては優秀を極める瀬戸朱莉は、以前より真剣に勉強に取り組むようになった。

最初の頃のようにわざと時間を稼いだり小ざかしい間違いを仕込んだりしてこないのは、早く予定を終わらせれば待っている『ご褒美』を本気で欲しがっているからと思われる。

そのおこぼれに預かったと言うか、おかげで俺にも、当初の予定より夏らしい思い出が増えた。


外に出ることが増えた彼女は、よく声を立てて笑うようになった。

俺にはやはりそれが、彼女の自然体に見える。


では。

家での彼女は、学校での彼女は、一体何だと言うのだろう。
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