幸せ 〜届かない想い〜
第二章・『夏』 〜すれ違い〜
あれから何度かカレンダーをめくってとうとう7月に入った。


「あーもーだめ。死ぬ。溶ける。」


「頑張りなって!ちなが悪いんじゃん。」


「え、だってクーラーもつけないで居残りさせる?先生は殺人鬼ですか。」


「頭悪いちなが悪い。」


「悪い悪いゆうな。(¬_¬)」


「そーだぞちぃ!」


「ひゅーが!」


ちっきたか、虫め。


ふっ私との戦いを望むとは愚かな。


「何してんの部活早く戻りなよ。」


「忘れもんだよばーか。」


「あっそ。」


「何?どこがわかんねぇの?」



突然顔の横から伸びてきた飛向の横顔に驚いてしまった。




全開の窓から涼しげな夏風が上昇した体温を少しなごませてくれた。




「おーやってるかー?」


「「先生!」」


「せんせー(¬_¬)」


嬉しそうな飛向とりっちゃんの声と


千夏のうらめしそうな声が重なった。


「おーやってんじゃねぇか。千夏ー!」


「やらなきゃ帰れないんでしょやるよ。」


「お、生意気なのは変わらんな(笑)」


「べーだ。」


「まぁまぁそんな顔しないで秀才の川月と神空がいるんだなら教えてもらえー!」


「一人でできるから(^v^╬)」


「お、威勢はいいな。(笑)
まぁ頑張ったらご褒美あるから(^v^)」


千夏ちゃんスイッチON。


「やります。」


「うし!じゃ先生部活戻るな。
暗くなるまでに終わらせろよ(`∀´)」


笑顔で先生は帰っていった。


「で、どこが分かんねぇの?」


「ここ。とこことこことここ。」


「全部じゃねぇか。」


「ほっとけ。」


「じゃあここはこうして~~~~~…」


飛向が説明してくれた所を言われるがままに解くとあっとういうまに問題集が終わってしまった。


「ほら、出来んじゃん!」


笑顔と一緒に千夏の頭に大きな手がのせられる。


千夏の頭をくしゃくしゃ撫でて飛向は教室から出てった。


その様子を黙ってみてたりっちゃんはニタニタ笑ってる。


「なに、きもいりっちゃん。」


「うふ♡お疲れ様(^v^)」


「あ、ちょっとりっちゃんまだ国語が…」


りっちゃん!


嬉しそうに教室から出てくりっちゃんは止まってはくれなかった。


「はぁ一人でやるの?これを?」


5分たっても1時間たっても問題集は真っ白なままだ。


窓から冷たい風が入ってくる。


外はもう真っ暗。


「帰ろ。」


真っ白な問題集を教室に残して千夏は教室を後にした。


上履きから靴に履き替えて千夏は玄関を後にする。


「ちぃ!今帰り?」


「まぁね。あんたこそ今帰り?遅いね。」


「そりゃ俺様は部活頑張ってっからな!」


「飛向の分際で何をゆうか(笑)」


「なんだよそれ( ー̀ н ー́ )」


そう言って千夏と飛向は肩を並べて門を出た。


「俺こっち。」
「私こっち。」


千夏は飛向に手を振って背中を向けて歩き出した。



少ししてから飛向の足音が聞こえた。



また夏にしては冷たい夜風が私の髪を揺らす。
今日は少し風が冷たい。



「ちぃー!!」


おもむろに足を止めて振り返った私は思わず驚いてしまった。


「飛向!」


何してるの?


「何してんの?」


「いや暗ぇし送ってこうかなって。」


「いいよ!家反対方向だよ?」


「いーのいーのトレーニング!」


でも1時間はかかっちゃうよ?



なんでそこまでするの?



「いやでもほんと大丈夫だから!」


「俺の気が済まねぇんだよほらいくぞ!」


「あ、ちょっと飛向!」


「ほら行くぞ!」


もぅ。ほんと強引。


千夏は飛向の一歩後ろを歩きながら飛向に向かって舌を出した。


「おせぇよ!」



―グイっ―



突然飛向が千夏の手を引っ張って自分の隣に引き込む。


「ちょっ飛向!」


「遅い!送ってる意味ねぇだろ!」


「でも…」


「あ、そだお前花火大会行く?」


「花火大会?あぁりっちゃんと行くよ?」


「そか!」


「飛向は?俺は部活の友達とかな。」


「ふーん。」


「ちぃは好きな人とかいたりする?」


「えっいないよそんなの。(笑)」


千夏の顔がみるみる赤く染まってく。


「嘘つくなって。」


「嘘なんてついてないよ!」


「いーやついてる。」


「ついてない!」


「左耳。」


「え?」


「お前嘘ついてる時無意識に左耳触ってるだろ。」


嘘?ほんと?そんなの自分でも知らなかった。

まだあって3ヶ月なのに弱みを握られてしまった。


「そんなことないよ。」


「で、誰が好きなん?」


「え、いやその。」


「そうゆうのいいから。」


嘘、ほんとは嘘ついてる。


最近気になる人が出来たんだ。


りっちゃんにも言ってない。



私だけの心の秘密にしてたのに。



飛向にあっさり見抜かれてしまった。


「いないよ、そんな人。」


「なんで嘘なんかつくの?」


「あ、ここまででいいよ!ありがとうじゃあね!」


ちなみには飛向の言葉を無視して暗闇の中に消えていった。




「ここはテストに出すからな!聞いとかん奴しらねぇぞ~?」


廊下に響く先生の声。


千夏は身をかがめて様子を伺う。


クラスメイトはそんな間抜けな先生と無謀な千夏を見て笑いをこらえるのに必死だ。


何とか半分まで来た時、


「千夏、お前には後でたっぷり話がある。
早く座った方が早く帰れるぞ(^-^)」


「う……」


クラスの中はどっと盛り上がり少し熱が増した。



「災難だったねちな(^v^)」


「なんで笑ってんのりっちゃん(╬^∀^)」


「え、だって寝坊して怒られた上に体育委員にされるなんて笑うしかないじゃん^^*」


「はっはぁなるほど面白いね(╬^∀^)」


「ちぃ。」


低く通った声に千夏は肩を揺らす。


「は、い?」


「昨日はよくも俺一人おいて帰ってくれたな(怒)」


「あ、いや、その、あれは。」


「川月悪いけど二人にしてもらえる?」


「もっちろん♪ちながんば!
移動だから行っとくね(^v^)
先生には適当に言うからごゆっくり♡」


「あ、りっちゃん!」


莉子が教室から出ていってしまうと残るのは飛向と千夏の二人だけになった。



―キーンコーンカーンコーン―



「飛向、チャイム鳴っちゃったよ?」


「この授業はサボっちまおうぜ♪」


無邪気に笑う飛向に千夏はNOと言えるはずもなかった。


「怒られちゃうよ?秀才くん。」


「いーのいーの息抜き息抜き。」


さっきまで怒ってたくせに変な奴。て


「で、さっきの話だけど」



ふと飛向の顔が真剣になる。



「あれは嘘なんかじゃないからっ!」


「分かったから落ち着けって。」


「置いてったのは悪いと思ってるけどほんとにいないから!」


「うん。そうだね。」


「…。」


子犬のみたいだった飛向が突然大人になったように感じた。


「ちぃ、体育館行こっか(^v^)」


「え?」


「誰もいないと思うし!」


「いやでも…。」


「何してんの行くよ?」


千夏をおいて飛向はもうドアの所に立っていた。


「あ、待って待って!」


慌てて追いかけて飛向の隣に行く。


たまに強引だよねこの人。


「ねぇ飛向鍵空いてないかもよ?」


「空いてるって。」


「でも…。」


「ほら、な?」


鍵、あいてるじゃん。


「いやでも怒られるよ?」


「3年生テストだし2年生いないから大丈夫だよ。」


「そーだけど…。」


「ほらバスケしよーぜ!」


飛向はあれからほんとにバスケ部に入ってきた。


サッカーを始めたのは中学からで小学校ではバスケをしてたらしい。


「あ、ボールあるよ!
3点マッチにしようよ!」


「えー俺1対1バトルがいー!」


「もー仕方ないなぁ。
その代わり私からだからね!」


「あ、待ってって!」


飛向の声も聞かず千夏は飛向を交わして


―バシュッ―


ゴールネットを揺らした。


「だから待てって言ったのに…。」


「気を抜いてるから抜かれちゃうんだよ。」


「(怒)」


飛向は転がっていたボールを拾って反対方向のゴールに向かって走っていく。


その途端にいた千夏はあっさり交わされてしまい、

飛向のボールは美しい楕円形を描いてゴールに吸い寄せられていく。


綺麗なシュート。


つい見とれてしまった。



「私だって!」


千夏はボールを取り返し走っていく。


2人は走ってはゴールを決め手の繰り返しだった。


残り5秒になり千夏がゴールを決め一点差で千夏が勝っている。


千夏はもう無理だろうという顔をして飛向の方を見る。


途端に走ってきた飛向にボールを取られてしまい追いかけるまもなくボールは宙を舞う。


「もう無理だよ!」


「まだ3秒ある!」


楕円形の円を描いたボールはハーフポイントからどこにも触れずネットに吸い込まれていった。



圧巻だった。



ボールが下に落ちた音と同時に試合終了のブザーが鳴り響いた。


あの3秒でハーフポイントからシュートを決めてしまった。


千夏と飛向は力尽き隣同士になって寝転がっている。


まだ春だというのに汗をかいて息を切らせて顔を見合わせて笑った。


しばらくの沈黙を先に破ったのはまたもや飛向だった。


「俺さ、小学校3年?の時に腕、骨折して、
肘悪くなってさバスケやめたんだ。」


千夏は黙って頷いた。


「それがトラウマ?みたいのになってここ3 年はなんにもしてない。
まぁ肘は完治してるんだけどな。
時々痛むくらい。 」


黙ったままの千夏に飛向は続ける。


「けどさ、お前がバスケしてるとこ見てあぁやりてぇなって、
また出来るかなって思ったんだ。」


「お前に俺は救われたよ。」


千夏は天井を見ていた顔を飛向のいない方にそらす。


それはきっと




頬を伝う涙に気づかれてしまうからだろう




「あれが3年もブランクある人に見えない。」


千夏は震えた声で言った。


「そうだな。」


飛向は笑った。



私が飛向を変えたのかな。

私が飛向の力になれてるのかな。


私が飛向を支えられるのかな?



私が飛向を支えてあげたい。



千夏は突然立ち上がって1人で教室に戻っていった。
< 3 / 4 >

この作品をシェア

pagetop