コンプレックスさえも愛されて。



「沙耶香聞いてくれる?」

彬さんはそう言って私の瞳を覗き込む。
頬を包まれたままだから身動きができずにいると、彬さんは小さく息を吐き出して、ゆっくりと話し出した。




「情けないけど……沙耶香が今、なんで泣いてるのかが俺には分からない……でもな、正直な所、これが今の俺達の距離だよな」
「…彬、さ……ごめんなさい…」
「謝らなくていいんだって……でもな、だからこそ俺は知りたい。沙耶香がどんな事を考えてて、何を思ってるのか……ムカついて泣いてるのか、悲しくて泣いてるのか、それとも、嬉しくて泣いてるのか…分かるようになりたい。沙耶香はさ、そう思わない?」
「………思い、ます…」
「ん、よかった……恋愛ってさ、ふたりでするもんだろ?だから俺は、沙耶香とずっと一緒にいたくて旅行に誘ったし、沙耶香を俺のものにしたくてあんな宣言もした。もしそれが……沙耶香にとってなんらかのプレッシャーになってたら申し訳ないって思うけど、それならそれで、その事を教えて欲しいっていうか………俺は、俺が思ってる事を沙耶香に知って欲しいから伝えていくし、同じように沙耶香の事も知りたい。意見が食い違えば喧嘩すればいいし、何度でも仲直りすればいい……俺は…そうやって、沙耶香を知っていきたいって思ってる」

ゆっくりと噛み締めるようにして想いを伝えてくれる彬さん。
どうしても涙の止まらない私に、もし同じように思ってくれるなら、泣いてる理由を教えてくれないか?と、額にそっとキスをくれた。


< 23 / 38 >

この作品をシェア

pagetop