○○するお話【中編つめあわせ】
あの、弾けるような笑顔も、頭を撫で回す優しく厚い手も。
もう、私に向けられることはないのかな。
ぼんやりとそんな事を思って、じわりと鈍く胸が痛んだ。
恭くんは。
まだ、私を好きでいてくれてる? それとも――。
「あー、見て見て、凛ちゃん。また来てるよ」
定時を少し過ぎた社内。
頼まれたデータ入力を終えて一息ついていると、隣の席に座る宮地さんに話しかけられた。
くいっと、ブラウスの肘の部分を引っ張られて、なんだろうと視線を移すと、宮地さんの視線は喫煙室に向けられていた。
サボり防止のためなのか、三面をガラスの壁に区切られている喫煙室。
その中が少し白っぽく見えて、思わず煙たい気分になるのは、私が煙草を吸えないからだと思う。
恭くんはそこまで本数を吸うわけじゃないけれど、それでもスーツに匂いは残っていて、実はそれを嗅ぐだけでも、うってくる。
実際に喫煙室の中にいる恭くんは、煙なんて気にもならない様子で談笑していた。
恭くんの隣に並んでいるのは――。
「田坂さん、国見さんが喫煙室いるとくるよね。狙ってるのバレバレ」
田坂さんっていうのは、第二営業課の人で、歳は私よりもいくつか上だ。
だから、恭くんよりも上。
恭くんと私は同じ年だから。