硝子の花
タイトル未編集

ある街に、ガラス細工を作る小さな工房がありました。
その工房にいる職人は若い青年一人きりで、師であった親方の元から独り立ちしたばかりでした。
腕は確かなのですが、工房があるのは市場から外れた裏路地に近い場所で、見過ごして通り過ぎてしまうくらい小さな入口と看板があるきりなので、一向に人からは見向きもされませんでした。
青年は来る日も来る日もガラスで小さな動物や魚を作っては市場に売りに行き、やっとお金を稼いでいました。

ある日のこと。
青年が工房で黙々と市場に売りに行くガラス細工を作っていると、珍しくお客さんがやって来ました。
そのお客さんは、仕立ての良いドレスを着た少女で、見るからにお金持ちの家のお嬢さんのようでした。
青年は、狭く小汚い自分の工房にそのようなお嬢さんが来たのですっかり面喰ってしまいました。

「お嬢様、ここは粗末なガラス細工の工房です。
きっと、お嬢様は来るお家を間違えてらっしゃいますよ」

青年が慌ててお嬢さんに説明すると、お嬢さんはにっこりと笑って首を振りました。

「いいえ、私はここに用があって来たのです。
あなたに作ってほしいものがあるのです」

「僕にですか、」

「ええ、あなたにガラスで花を作ってほしいのです」

青年はお嬢様の話を聞いて驚きました。

「ガラスで花を作るのですか」

「私、どうしてもガラスで出来た花が欲しくてここへ来ました」

青年は今までにガラス細工で花など作ったことはありませんでしたから、困ってしまいました。

「ガラスで花を作るのはきっと難しいですよ。
薄い花びらを壊れやすいガラスで作るなんて無理ですよ」

青年が言うと、お嬢様はたちまち悲しそうな顔になって、ぽろぽろと涙を流して泣き始めてしまいました。
お嬢様が涙を拭こうとハンカチを取り出しましたが、青年は大変驚きました。
ハンカチには、この街で一番の長者の名前が刺繍してあったのです。

青年はこの話を簡単に断ってしまってはもったいないと思いました。
なんとかこのお嬢様の言うようなガラスの花を作れば、腕の良い職人として有名になれると思ったのです。

青年はお嬢様の頼みを受け、ガラスの花を作ることにしました。
お嬢様にそう言うと、またにっこりと笑って、お礼を言って帰りました。

< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop