お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
「――岡本さん?」



だが、頭でわかって、慎君にも頷いた筈なのに、私は立ち上がり、見えない慎君の姿を探す。



「大丈夫。大丈夫なんです……」



「何が?岡本さん、落ち着こう??」



「落ち着いてます。私はただ……」



「“ただ”?」



「……そのっ……」



白百合に制され、何事もないように振る舞うつもりが、私の中では焦りが出て来た。

慎君が居ないと、危ないんじゃないだろうかと。

校長室にお兄ちゃんが居るとわかってる。

けど、お兄ちゃんに持つ安心感とは違う何かが慎君に持ってるのか、危険信号が働いてる。



「……どうかされました?」



「いえ、何も……」



慎君が戻って来て、私たちを不思議そうに見て来る。

白百合は何も言わずに居るも、慎君と同じように私を見てる。

彼が戻って来た事にホッとし、安定剤を打たれたかのように落ち着く。

白百合の視線だけを鬱陶しく思いながら、職員室を後にした。

慎君の車で送り届けて貰い、1人マンションのエントランスへと入る。

慎君は学校に戻った為、帰宅するなりスエットに着替えてベッドにダイブ。

ここには誰も居ない。

だけど、仰向けになれない。

横を向き、壁を見つめる。

眠れない、落ち着かない。



「はぁ……っ」



元々、眠るつもりではなかったと、起き上がり、洗濯物を取り込みに行く。

畳んで、ワイシャツにアイロンを掛ける。
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