さかさまさか
雨の日
雨の日になると、思い出す。
甘い痛い記憶。

塾の帰り家に帰りたくなくて、近くの土手でぼーっとしていた。

土手上の車道で自転車が走る。
『さくら。』
『お前なにしてんの?』
『あっ!ちょっとね。バイバイ』
『なんかあった?』
『塾辞めてきた~。』
『大学は?』
『働くよ~。』
『なんで?』
『経済的な問題』
『そうかぁー。』
『おじさん?見つかった?』
『ないよ。』
『全部持ってかれた~。』
『私のお年玉やら、バイト代やら貯めたのも』
『笑ってる場合かよ』
『笑わないとやってらんないよ』

『おばさん、働いてるじゃん。服のユニフォームだっけ』
『リフォームね。たかがしてれてるよ。』
母は、服のかけつぎやら、裾直しやら、作り替えたりする職人だ。

『亮太は?』
『俺は、専門』
『そっか~。』

『じゃ!原宿だ!』
『うん』
『いいなぁー。』

『あっ!雨!』
『帰ろうぜ!早く』
『先帰って~。バイバイ!』
『逃げるか?』
『はぁ~』
『何もかもから。』
『うぅん』
と2人で吹き出した。

『ありがとね』
『いやいや。』
『帰ろうかぁ。』
『おぅ!!』と言った顔にドキドキしてその顔に触れたくなって、唇を押し当てた。
『あぁ~。』と困っていたものの、優しく唇と唇が触れ合った。

『ごめんね。』
『うん』

『さくら。』
『うん』
『迎えに来るから。』
『チューくらいで、責任感じなくても』
『はぁ~。お前はいつも』
『ありがとね』
『はい。』

2人で微笑みあった。
幸せだった。








< 6 / 27 >

この作品をシェア

pagetop