さかさまさか
ロビーがざわつく。
団体が何組か出てきた。

いかつい集団が、目についた。
妙に明るい、茶髪より金髪だ
あれに間違いない。
顔を確認し
『お父さん!』
その人は、私の顔見て逃げようとする。
『おじさん、お久しぶり。』とケンジが手をつかんだ。
『逃げないで』
私たちは、コーヒーハウスに入った。
『久しぶりだな。さくら。』
と手持ちぶさたなためか、タバコに火をつけた。
『返して、お金。』
『ここに口座番号書け。振り込んでやるから』
『今、何してんの?』
『ラブホテルとラウンジ。』
『そっか~。』
『お母さんは?』
『元気だよ?結婚したよ。私の塾の先生だった人と』
『はぁ~。やるなぁ。和子も』
『俺もな。結婚したんだ。』
『逃げた人と。』
『違う人』
『返して、お金。』
『何してんだお前は?』
『私は、高校出て、駅前の洋農で働いてる。』
『オカマ元気だったか?』
ケンジに話を振る。後ろ暗い証拠だ。
『元気です。ラーちゃんあなたのせいで、辛い思いしたんですよ。』
とケンジが泣き出した。

この人は、私と母を捨てた。
『すまないとかないの?』
『すまない』と笑った。
『もういいよ。』
『ここ俺の会社。』と名刺を差し出した。
『おばぁちゃんボケて来たよ。子供も親もほったらかして呑気なもんだよ。』
父は黙って聞いていた。
『また、連絡する。』と名刺をポッケに入れた。
『ケンジ行こう。』
『いいの?』
『いいよ。』
『ううん』
涙も出なかった。





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