お前が愛しすぎて困る



「いいなー、デート。」


“ 私もしてみたい。”


そう溢した花南の言葉を、


俺は聞き取ることができなかった。





花南のマンションに着いて、


迎えに来た時と同じ場所に車を止めた。



「…次は、


またお花見に連れて行って。」


毎年恒例になった花南との花見。


言われなくても連れて行くつもりだった。


「分かった。」


花南が照れたように笑った。


嬉しいとき、


たまに見せる


天邪鬼なこいつの笑顔。


「映画、マジで悪かった。」


「もういいよ。


レンタル、付いて来てくれたら許す。」


「…分かった。」


そう言うと、


花南はまた少し笑って、


ドアに手をかけた。


「じゃあね。気をつけて帰って。」


「お前もな。」


花南が見えなくなるまでそこにいた。


あいつが振り返ったり、


手を振ることはない。


それでも、


あいつを見送ってから


エンジンをかけると、


ほとんど車の通らない道路へ車を走らせた。


< 32 / 55 >

この作品をシェア

pagetop