お前が愛しすぎて困る
「いいなー、デート。」
“ 私もしてみたい。”
そう溢した花南の言葉を、
俺は聞き取ることができなかった。
花南のマンションに着いて、
迎えに来た時と同じ場所に車を止めた。
「…次は、
またお花見に連れて行って。」
毎年恒例になった花南との花見。
言われなくても連れて行くつもりだった。
「分かった。」
花南が照れたように笑った。
嬉しいとき、
たまに見せる
天邪鬼なこいつの笑顔。
「映画、マジで悪かった。」
「もういいよ。
レンタル、付いて来てくれたら許す。」
「…分かった。」
そう言うと、
花南はまた少し笑って、
ドアに手をかけた。
「じゃあね。気をつけて帰って。」
「お前もな。」
花南が見えなくなるまでそこにいた。
あいつが振り返ったり、
手を振ることはない。
それでも、
あいつを見送ってから
エンジンをかけると、
ほとんど車の通らない道路へ車を走らせた。