今宵、闇に堕ちようか
「うちの問題は、良くも悪くも子供なの。子供によって家庭が壊れ、子供によって家族を継続してる」
「は?」

 さえこの言っている意味がわからない。

「4年前、私は子供をおろした。いろいろあって。それでも私は夫の妻であるために努力した。でも駄目だった。あの子をおろして一年たったとき、夫はなんて言ったと思う? 『お祓い』って言ったの。この世に生まれてくるはずの我が子をまるで邪悪なものように『お祓いすべきじゃね?』って。言葉の語録がないから、供養って思いつかなかっただけけもしれない。でも私は傷ついた。私たちの子だったのに。生まれてきて、愛されて育つべき子供だったのに」

 さえこはパッと言葉を止めると、視線をあげた。夜空の星を見上げるかのように空をあおぐ。

「誰にも言えない闇を抱えていても、私は幸せよ。毎日が楽しいの」

 まるで天にいる子供に言うかのようにぼそっと、さえこが呟いた。

「院長も。離婚で闇を抱えた一人かもしれない。それでも幸せになれるよ。私に手を出して、不幸の連鎖を招くのではなくて、きちんとした恋愛をしなよ。必ずいるから。自分を心から愛してくれる女性が。その人を見つけて、院長も心から愛してあげなよ」

 さえこがポンッと俺の肩をたたいて、微笑んだ。寂しい笑顔だった。
 ケーキ、ありがとね。とさえこは、箱を抱きしめて俺に背を向けた。
 さくさくと速足で、ハナモリの駐車場を出ていき、すぐに姿が闇に消えた。

「愛とか恋とか、面倒くせえんだよ。もう、興味もねえし」

 てか、さみっ。
ぶるっと体を震わせると、車に乗り込んだ。



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