クールな先輩の心を奪う方法
声をかけられた時は、もうとっくに定時は過ぎていて、午後7時を回ったところだった。

私は声のした方を見上げた。
その途端、突然手が伸びてきて、私の額に当てられた。

「…安藤さん?」
「顔が赤いぞ?…スッゲ―熱いし」

そう言って眉間にしわを寄せたのは聖。
言われた本人は、全くの無自覚で、首を傾げる。

「安藤さんの気のせいじゃありませんか?」
そう言って聖の手をそっと下ろすと、立ち上がろうとした。


「佐々木!」
「・・・・」

・・・驚いた。
目の前がグラ~ッと歪んだかと思うと、一瞬意識が飛んでいて、気が付けば、聖が私をしっかりと支えていた。

「やっぱり熱あるぞ・・・仕事なんかいいから帰れ」
「もう少しで終わるんですけど」

「バカ!こんなの、お局の雑用だろ?オレが明日やっとくから気にすんな。
それより、送っていく・・・支えてないと立っていられないのに、1人で帰れないだろ?」

「・・・でも」
「こんな時は、誰かに甘えればいいんだよ」
そう言って聖は、優しく微笑んだ。

・・・その優しさのせいか、一気に気怠さが押し寄せてきて、タクシーの中で、聖の肩にもたれたままウトウトしていた。

「佐々木、着いたぞ」
「・・・だるいです」

「だろうな、相当高熱だぞ」
私をタクシーから降ろすと、部屋まで連れて行ってくれて、着替えさせてくれて、ベッドに寝かせてくれた。

「…寒いか?」
「…スッゴク」

・・・あぁ、ポカポカして温かい。
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