麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
食事室は、“食事室”との名には不似合いな、広大な空間だ。

天井は高く、壁には一枚でセレイアの背丈の二倍ほどはあろうかという雪の神スノーティアスの一大叙事詩の絵画が、十章立てで飾られている。

その荘厳な空間では私語は一切禁止され、皆静かに長い食卓を囲む席に着いていくところだった。

ディセルはこの空気に呑まれて、唇を引き結び、緊張の面持ちでセレイアの隣を歩いている。私語こそないとはいえ、皆の視線が自然と彼に集中するのは、無理からぬことだ。彼の美しさは尋常ではないことに加え、姫巫女が連れているなど、いったい何者だろうと思っているのだろう。

長い卓の最奥に繻子張りのセレイアの椅子がある。

セレイアはその隣にディセルと共に立ち、皆が着席するのを見計らって声を上げた。

「本日はわたくし、姫巫女セレイアより、皆に伝えたきことがございます」

ゆったりとした発声、抑揚をつけた落ち着いた喋り方は、普段のセレイアからは考えられないものだ。

すっと伸びた背筋と、引き締まった表情。別人のようなセレイアの変化に、ディセルは目を瞠った。

言葉もなく、皆の視線がセレイアに集中する。

中に睨むような視線を感じるが、それは間違いなく“大巫女”ハルキュオネのものだろう。

セレイアにとって唯一の上司だ。口うるさくてかなわない…とは本人の間では決して言えないが。

「先日、夢の中に雪の神スノーティアス様が現れ、わたくしにこう告げました。
“神木に参れ、さすれば我が眷属、神人を遣わす”と。
お言葉の通り夜更けに神木に向かうと、神木が突然光り輝き、天からも一条の光が射しこんで…その光の中から現れたのが、このお方でした。
彼の名はディセル。
神より遣わされし銀の神人。
そして我が国の客人でもあります。
皆敬い、粗相のないように」

皆が一斉に了承の意を示す。すなわち両手を組み、頭を下げて礼を取る。

「ディセル様、どうぞこちらへお座りください」

セレイアが椅子を勧めると、ディセルは緊張のためかちんこちんになりながらも椅子に座ってくれた。

そしていつものごとく祈りが始まり、朝食の時間となった。
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