麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
二人はそのあとしばし無言で歩いたが、漂う空気はあたたかなものになっていた。

夕食をとったあとセレイアは二時間武芸に励み、寝る前の空いた時間に、フリムヴェーラに渡す予定だというベビー服をちくちくと縫っていた。

長い一日が終ろうとしていた。

残念ながら記憶は戻らなかったが、わかったことは…セレイアがまっすぐで一生懸命で、あたたかな人だということだった。

就寝前、あいさつに行くと、セレイアに尋ねられた。

「今日一日で、何か思い出せた?」

「何も…」

「そっか。じゃあ今度の休日、街にも行ってみましょうね」

セレイアはそれが当然と言った顔だ。

ディセルはずっと思っていたことをセレイアに尋ねてみることにした。

「セレイア。どうして、見ず知らずの記憶喪失の俺に、そこまでしてくれるの?」

「どうして?」

そんなことかと、セレイアは朗らかに笑った。

「困っている人がいたら、助けるのが当たり前でしょ。
ありがたく思ってくれるんだったら、いつかあなたも、困っている人を助けてあげてね。私はそれで十分なの」

「…………」

なんだろう。

ぽかぽかと、胸のあたりがあたたかい。

ディセルはそのぬくもりを抱きしめるように、拳を胸にあてて思った。

自分をみつけてくれたのが、彼女でよかった、―――と。
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