麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
夕暮れ時のトリステア王都メルティアは、昼にも負けぬ美しさがある。

白い雪が西日に映えて、空も大地も、世界全てがオレンジ色に染まるのだ。

まるでオレンジの世界に迷い込んだかのようで、それがじょじょに薄闇に染まっていく様など、何年見ても見飽きることがない。

「今日は本当に楽しかったな」

下町を並んで歩くディセルの表情は明るい。

「一日中見て回ったものね。疲れたんじゃない?」

「全然! まだまだ見たいよ。俺、この国が、大好きになった」

「そう言ってもらえると、何より嬉しいわ」

セレイアとディセルは目を見合わせ微笑み交わした。

“オアシス”でフリムたちと別れた後、セレイアたちは“農場”を訪れた。

年中雪の王国ゆえに、農業は半分が雪の中で行われる。

つくるのは、“雪野菜”。

その名の通り雪の中で育つ強靭な野菜だ。じゃがいもやとうもろこしなどの野菜を、雪の中で育て、収穫することができる。これは初代姫巫女が、雪の中で育つ野菜を、雪山からみつけて持ち帰ったのが始まりとされる。

国外秘の方法ゆえセレイアも詳しいことは知らないが、この国が雪野菜によって、過酷な気候条件にも関わらずほぼ自給自足の生活を営めているのは事実である。

一見すると一面の雪野原に見える農場。だかその下ではたくさんの野菜がすくすくと育っているのだと教えると、ディセルは感心しきりだった。
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