麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
農業のもう半分は大規模な温室で行われる。

温室では主に牛、豚、鶏などの家畜が飼われている。

セレイアたちは今日、この温室のひとつも訪れた。

のびのびと青草を食む牛たち。

放し飼いにされ、自由にくつろぐ豚や鶏たち。

ディセルは彼らと追いかけっこをして終始はしゃいでいた。プミラと触れあわせてみた時も思ったが、彼はかなりの動物好きなのだろう。自身が純粋であるから、純粋な心を持つ動物たちと、気が合うのかもしれない。

セレイアがなんとはなしに今日の出来事を回想して歩いていると、どこからか歌声が聞こえてきた。

それは、高いとも低いともつかない、中性的な声。

きれいに通り、空気を震わせる美声だった。

ちらりと隣をうかがうと、案の定ディセルは目を輝かせ、歌声のする方へと進み始めている。

(こんなに美しいのに…中身は本当にかわいいわね。好奇心旺盛なところ)

「吟遊詩人よ。一曲聴いていきましょうか」

「やった!」

声に誘われて路地を曲がると、粗末な絨毯を敷き、床に座り込んで竪琴をかき鳴らす吟遊詩人の姿が見えた。
濃紺に派手な花飾りをつけたよれよれの帽子。

くたびれたマント。

…旅の吟遊詩人なのだろう。彼のものらしい大きな荷物が絨毯の脇に置かれている。

あたりには軽く人だかりができており、盛況のようだ。

二人がもう少し近づいてみると、吟遊詩人の横顔が見えた。

わずかに肩にかかる、色素の薄い水色の髪と、透けるような青い瞳。

とても美しい男性だ。

女性たちがため息をもらして彼の歌声に聞き入っている。
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