星の降る街
トントン…トントン…。

『う〜ん…もう朝?』

ぼんやりした視界の中に遠慮気味なドアを叩く音が耳に入ってくる。次第に視界がハッキリしてくると見慣れない天井に眉間にしわを寄せる。

(あ…そっか。私、会社辞めたんだったわ…。)

見慣れない天井の意味を理解すると、退職してから幾度となく繰り返す現実を受け止める作業に心が渇いていく。


トントン…。
『あっ、そうだった。はーい?』

寝起きで出ていく勇気もなく、それ以上に暖かい布団から抜け出したくないという気持ちが勝り、現状維持で返事をする。

ガチャガチャ。

『へっ⁉︎』

まさかドアが開くとは思っていなかった絵理香は完全に素の状態で布団から飛び起きる。

『だ、誰⁉︎』

『お姉ちゃんおはよー!』

警戒心たっぷりで出迎えたのは、可愛すぎるお客さま。

『陽太くん?おはよう…どうしたの?』

『えへへ。僕もう幼稚園行くから、お姉ちゃんにいってきますのチュウしにきたの!』

『いってきますのチュウ…⁉︎』

今どきの5歳児はいとも簡単にアラサー女子の心を擽るような台詞を言ってしまうのか?絵理香はカルチャーショックに眩暈がした。

『何言ってんだ!このクソガキ。』

陽太の背後から悠太がゲンコツをおみまいしながら呆れた表情で絵理香に視線を向ける。
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