まっしろな遺書
07月:泣かない彼と泣き虫な彼女
 2015年7月1日

 十三は、待合室の椅子の上でため息をついた。

「ため息をつくと幸せが逃げちゃうよ」

 美穂が、そう言って十三の隣で笑う。

「いや、ため息をつくことで不のオーラを吐きだしているんだ」

「そっか……」

 美穂が、十三の体を横から会抱きしめる。

「な、なに?」

「好きになったって言ったら怒る?」

「え?」

「私、十三のこと好きになったみたい」

「急に何を言っているの?」

「だから、いいでしょ?」

 美穂が、耳元で囁く。

「何をするんだ?」

「言わせるの?」

「えっと……」

 十三は、戸惑う。

「十三は、鈍感だね」

「うん」

  確かに捨てることは出来る。
  だけど、俺は君の本当の名前も知らないんだ。
  だから、ごめん……
  君とは、セックスすることは出来ない。
 十三は、そう思うと泣きたくなった。

「はぁ……」

 美穂が、ため息をつく。

「うん?」

「いつか、いつか、やろうね……」

「そうだね」

  君の正体が、わからない限り俺は、何も出来ない。
 十三は、そう思うと胸が苦しくなる。

「その顔何か隠してるな?
 私たちの間に隠し事は無しだぞ?」

「美穂は、隠し事は、無いの?」

「え?」

 美穂の顔が一瞬曇る。

「まぁ、いいや……
 俺も美穂に隠れてエッチなDVD見てるからいいよ」

「没収していい?」

「見るの?」

「捨てる」

「じゃ、ダメだ」

「むー。ケチー」


 美穂は、十三の耳元で騒ぐ。
 十三を抱きしめる腕には、優しさが込められていた。
  暖かい……
 十三はそれが、どこか心地よかった。
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