まっしろな遺書
「痛いんだろうなぁ」

 男は呟く。
 そして、男は思った。
 手首を切るとか自分には無理だ。

「じゃ、飛び降りか?」

 飛び降り自殺は、他人を巻き込む可能性がある。
 そしたら、飛び降り自殺は飛び降り自殺じゃなく飛び降り他殺になる。
 成人男性の体の水分は、60%以上ある。
 そんな体の物体が飛び降りたら……
 辺りは大惨事だ。
 
 自殺した人の肉片は遺族が拾うらしい。

 男には家族と呼べるものはもういない。
 今は勘当されて家を追い出されている。

 だからと言って線路や海に飛び込む勇気なんて無い。

 男は、カッターナイフをじっと見つめる。

「やっぱ、カッターナイフか……」

 だが男は思う。
 動脈を1発で切るなんて事はできないだろう。
 なんどもなんどもためらい傷をつけることになる。
 それはそれはとても痛いことだろう。

 残された選択肢。
 それは、睡眠薬だ。
 男は、鬱の病気を持っていて睡眠薬を沢山持っている。
 隣ではすでに女が、睡眠薬を飲んで眠っている。
 女の名前は、美穂。
 男の同居人だ。
 しかし、残念ながら恋人ではない。

 男は睡眠薬を口の中に放り込み。
 そしてビールで薬を喉に流し込んだ。

「バカヤロウ」

 薄れゆく意識の中。
 女の声が聞こえた気がした。
 その声は、美穂のような気がした。
 だけど、男には関係ないことだった。
 なぜならもう死ぬのだから……
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