まっしろな遺書
03月:ゆびきりげんまん
 2015年3月1日

 朝が来る。
 十三は美穂を玄関まで送る。

「なんか私が、退院するみたいだね」

 美穂が、笑う。

「お姉さん、お兄さんを捨てちゃうの?」

 歩が涙目で美穂に尋ねる。
 美穂はしゃがんで歩の目線に合わせて言った。

「お姉ちゃんはね、ちょっとお仕事で東京の方まで行かなくちゃいけないんだ。
 1ヶ月したら、戻ってくるから……」

「約束だぞ」

 元太が、目を潤ませる。

「うん!」

「じゃ、ゆびきりげんまん」

 愛が、そう言って美穂のシャツを引っ張る。

「うん。
 約束ね」

 美穂が、小指を出すと愛ちゃんも小指を出す。

「ゆびきりげんまん、嘘ついたらハリセンボン飲ます。
 指切った」

 美穂は、ニッコリと笑うと丁寧に元太君に充君、歩ちゃんにもゆびきりげんまんをした。
 隼人ともゆびきりげんまんをしようとしたが、隼人はそれを拒否した。
 でも、美穂が、面白がって無理やり隼人ともゆびきりげんまんした。

 美穂は、子供たち全員にハグをして、最後に十三にもハグをした。
 そして、美穂はタクシーに乗って病院を出た。

 隼人が、ボソリと呟く。

「お姉さんが、約束を破ったら、お兄さんが約束守ってね」

「え?」

「ハリセンボン」

「針、千本も飲めるかな……?
 1本飲むだけでも至難の業だね」

 十三は、冗談っぽく笑った。
 すると隼人がため息交じりに答える。

「ハリセンボンって、魚のハリセンボンだよ?
 ハリセンボンの味噌汁とか唐揚げとか美味しいらしんだ。
 僕、死ぬ前に1度食べてみたかったんだから、よろしくね」

「そ、それは、どこに行けば食べれるのかな?」

「沖縄か沖縄料理の店に行けば食べれるんじゃないかな?
 その変のリサーチもお願いね」

 隼人の心がグサリと十三の心に刺さる。
 十三の所持金は、約5万円。
 美穂が、自分がいない間これで凌いでと言うことで置いて行った金だ。
 これで、果たして子供たち5人と自分の6人分のハリセンボン料理を食べれるのだろうか……
 十三はそう思うとの頭の中が真っ白になった。
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