まっしろな遺書
 2015年3月2日

 十三は暇をしていた。
 美穂は仕事へ……
 子どもたちは院内学級。
 相手してくれる看護師は仕事。
 十三は暇すぎたので病院を脱走した。

 そして向かったのは、萌の喫茶店。
 十三は懐かしい香りに喜び、昔から好んで頼んでいた飲み物を頼もうと思っていた。
 その飲み物の名前はキューピー。
 カルピスとコーラーを割ったモノのことだ。
 萌の喫茶店の名前は、喫茶萌萌。
 萌を溺愛する父親が、店の名前に萌とつけた。
 結構人気のある喫茶店である。

「いらっしゃいませー
 って、十三くん!おひさー」

 萌がカウンターまで案内する。
 そして、久しぶりに十三はキューピーを飲んだ。

「ふぅ。
 五臓六腑にしみわたる!」

 十三は思わずそんな言葉が出た。

「お酒じゃないんだから。
 十三くんは、相変わらずキューピー飲んでいるの?」

「うーん。
 キューピーを飲むこと自体何年振りかな」

「そっか」

 萌は、自分の胸を触り首を傾げる。

「どうしたの?」

 十三が萌に尋ねた。
 萌は苦笑いを浮かべながら答える。

「なんか胸の付け根辺りにシコリが、出来ちゃって……」

「んー
 ちょっと触らせてみ?」

「ダーメ―!
 十三君のスケベ!」

 そう言って萌が笑う。

「じゃ、私が触ってもいい?」

 そう言ったのは気づかな間に隣に座っていた銘だった。

「あ、うん。
 銘ちゃんならいいよ」

 銘は、うなずくと萌の胸を触る。

「確かに、小石のような硬いモノがあるね……」

「何かの病気なのかな?」

 萌が、心配そうに尋ねた。

「なんとも言えないけど……
 少し心配だから早めに病院に行った方がいいよ?」

 銘がそう言うと萌は静かにうなずいた。

「時間がある時に行くね」

 萌は、苦笑いを浮かべながらそう返事をした。
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