まっしろな遺書
05月:たこ焼きおじさん
 2015年5月1日

 今日、ゆかりは、退院した。

「十三君、またね……」

 ゆかりが、そう言って十三の手を握り締める。

「うん、またね……」

「北海道に来ることがあれば、遠慮なく美穂ちゃんと2人でウチに来てね」

「ありがとう」

 十三が、そう言うとゆかりは、ニッコリ笑う。
 そして、美穂の方を向く。

「十三君のことお願いね」

「うん。
 任せて!十三は、お爺ちゃんになっても面倒見るから!」

「うん!
 幸せになってね!」

「うん!」

 2人はあつい抱擁をした。

 そして、ゆかりは、見送りに来た子供たち1人1人に言葉を送った。
 みんな、涙は、流さない。

 こういう別れは、いい別れなんだ。
 みんな、そう自分に聞かせている。

「みんな、さよならは、言わないよ!
 だって、私は、またみんなに会いに来るから!」

 ゆかりは、そう言って車の中に乗った。
 そして、最後の最後まで窓から手を振っているのが、十三の目には見えていた。

「はぁ……
 なんか、寂しいね」

 山本が、小さく呟く。

「山本さん、居たんですか?」

「ずっと最初から居たよ。
 ゆかりちゃんも、きちんと挨拶してくれたよ」

「そ、そうですか……
 気づかなくてすみません」

「まぁ、なんだ……
 明日は、気分転換にたこ焼きパーティーでもやるか」

 山本が、そう言うと子供たちがはしゃぐ。

「たこ焼きパーティー!?」

「久しぶりですね!」

「たこ焼きくるりんこ♪」

 歩たちが、歌う。

「楽しみだね」

 美穂が、ぎゅっと俺の手を握り締める。

「そうだね……」

 十三は、空を見上げる。
 木には咲き残った桜が小さく残っていた。
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