夢おとぎ 恋草子
しかし それもそうだと私は納得いたしました。
何も身内の使用人に手をつけずとも
殿は女君にご不自由なさることはございませんからねぇ・・・
などと、思いを巡らせていた私を
現実へと引き戻したのは雲雀さまのお声でございました。


「凛々しい東宮と名家の美しい姫君・・・ 
お二人並んだお姿は絵のようにお美しいのでしょうねぇ」


うっとりと視線を宙に漂わせた雲雀さまは
心此処に在らず、なご様子でこうも仰いました。


「今を時めく左の大臣の一の姫さまですもの。
お誂えのご衣裳やお支度品の数々は
どれほど豪奢で壮麗か・・・。あぁ!見てみたい」


夢見る風な雲雀さまに 常盤さまは微笑んでお答えになりました。


「きっと 眩いほどのお誂えでございましょうね」 


家臣の中で随一の権勢を誇る左大臣家。
私たちでは見たことも、想像もできないような衣や財宝が
お部屋狭しと溢れかえっていることでしょう。
別世界のことのようでございます。


そんな別世界に住まう高貴な姫君が
時の帝に輿入れするのは慣例。

そして帝の娘である皇女さまは左・右の大臣家か
それに匹敵する名家へ降嫁なさるのも また習わし。
どちらにしても政略結婚なのですが
名家に娘として生まれた姫君も
また皇女として生まれた姫君も 
それが宿命であると抗いも疑いもなく幼き頃から受け入れ
宝玉の如く大切に守られ 育てられるのです。


それは私たちのように市井の娘として生まれた者にとっては
おとぎ話のような夢のお話。憧れてやまない身の上であり
羨まずにはおれない人生であることは
揺るぎもないことなのですが・・・ しかし・・・



「あの、常盤さま」
「はい?」


お手入れの済んだ狩衣を綺麗にたたんで掲げ持ち
長持に戻そうとなさる常盤さまを私は呼び止めました。

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