本気の恋をしようじゃないか《加筆修正版》
「ここって」
「うん。音楽準備室。久しぶりだよね」
私の顔を見て微笑む恵の顔が高校生の時の「小牧くん」と呼んでいたころの彼と重なり胸の奥がキュンとした。
音楽室の横の準備室は私たちが付き合いだした時に2人だけになる場所として使っていた秘密の場所だった。
恵は準備室のドアをゆっくり開けた。
そこは10年前とほとんど変わりなかった。
中に入ると本棚に入りきらないスコアと楽器独特の金属の匂いがあの頃の記憶を思い出させてくれるようだった。

「全然変わってないね」
「うん」
この部屋にはたくさんの思い出が詰まっていた。
一緒にお弁当を食べたのもこの部屋。
初めて抱き締められたのも、キスをしたのもこの部屋。
だけど2年の3学期に入ってからこの部屋に入ることはなかった・・・・いや、1度だけあった。

それは卒業式の前日。
この部屋にお別れを言うためだった。
短い期間だったけど私にはこの先も忘れることのできないたくさんの思い出を作った場所だったから・・・


「俺さ・・・実は卒業式が終わった後、ここに来たんだ」
恵が少し恥ずかしそうに話し始めた。
「え?」
「もしかしたら・・・杏奈がいるんじゃないかって。で、もしいたらちゃんと話をしたかったし、できればよりを戻したいって思っていた。だから暫くまったけど・・・杏奈は来なかった」
恵は私たちの定位置だった窓際に座った。
私もそれにつられるようにその隣に座った。
「私も実は・・卒業式前日に来たんだ。もちろん来るはずないとわかっていたけど、どうしても
最後にここでの思い出にありがとうを言いたくて……」
恵は驚くと大げさに肩をガクッと落とした。
「全く、すれ違うととことんすれ違うもんなんだな。まさか2人共ここにきていたなんてさ」
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