君と春を



「はぁ。」

今日は何度ため息が出るんだろう。

顔合わせの後に専務は社長と少し話して来ると席を立った。

彼は数年前その職を継いだ社長の弟だそうだ。

…どうでもいいけれど。

その合間の休憩で立ち寄った女子トイレで思わず疲れが声に出てしまった。

鏡をぼーっと眺めていると誰かが入ってきて私をみた。

「あら?冬瀬さん、新しいご主人様はどぉ?」

……ツンツンした物言いのこの人は同じ秘書課の友川里美。2年先輩で今は社長付きの、言わば秘書課のトップだ。

いつもバッチリメイクと体のラインを強調するようなスーツ、高いヒールで臨戦態勢だ。

そう、いつでもいい男を捕まえられるように。

今回私が付く専務は彼女にとって格好の獲物だったそうだ。

社長にも目をつけていたけれど一向に相手にされなかったというのは秘書課のみんなの間では有名な話だ。

……まぁ、その理由を知ってるのは私だけだろうけど。

『友川さん、専務付きにって社長に直訴したらしいけど今更秘書を変えるなんて面倒って理由で社長にダメって言われたらしいんです。お陰で今日は機嫌が悪いです』

それは同じ秘書課の後輩にさっき知らされたことだ。

「…仕事をするだけですから。どうもこうもないですよ。」

それは私の本心。
仕事さえしていればそれでいい。

八つ当たりしたそうに怖い顔で近づいてくる里美さんを尻目に、私は業務に戻った。



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