ヒカリ
「うー、さみぃ。」

少し前を泉水は震えながら歩いている。

「ねぇ。泉水?」

「ん?」

「私、一人で帰れるよ。」

ライヴハウスからうちはそんなに離れてないけど、私を送って戻ったら、打ち上げ間に合わないんじゃないかな。

絶対に聞こえてるはずなのに、泉水は無視して、さみぃさみぃ、と歩き続ける。

「泉水って、寒がり?」

「うん。いつもは下にいっぱい着込んでるんだけど。」

やっぱり聞こえてるんじゃん。

「私は寒いの平気。暑いほうが嫌だ。」

「俺、暑いのも寒いのも嫌だ。」

なにそれ。
ワガママだな。

背の高い泉水が寒そうに身を縮める後ろ姿はなんだか微笑ましい。

「汗かいたから、余計に冷えるんじゃない?」

「あー、そうかも。」

「風邪ひくよ。私、一人で帰れる。」

「…。」

まただ。
聞こえないふり。




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