さちこのどんぐり
そのとき

「どうしたぁ?お前」

後ろから聞こえてきた男の声に奈津美は振り返った。



ケガをしている犬に、そう話しかけた男は

30代半ばくらいだろうか、会社員風。
ダークスーツに身を包み、センスの良いレザーのハーフコートを着てて、
眼鏡はかけてなかったが、雰囲気はなんとなく坂崎に似ている。



犬はその場から動かず
上目遣いで彼を見ていた。

「かわいそうに…車にはねられたな…」

それを聞いて、奈津美はさちこのことを思い出していた。

「大丈夫!俺が助けてやっから待ってろ」

犬に話しかけながら
その男性はどこかに電話をかけているようだった。

「行政課につないでください」

男はしばらく電話で何やら話して

「そうですか…公道での問題は警視庁の管轄なんですね」

そう言うと
一旦電話を切り、今度は最寄の警察署に電話しているようだ。

その電話で現在地と状況を説明していた彼は

「ちがう!そういうこと言ってんじゃない!『公道の障害』とか、『違法廃棄物の撤去』とか、何言ってんだ!」
急に電話に怒鳴り始めた。

「こいつは、いま生きてるんだ!助けたいから協力してくれる連絡先を教えてくれ!」

そんな感じで、しばらく電話でのやりとりの後

「もう、結構です」

男は、そう言って電話を切った。


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