さちこのどんぐり
二人は焼肉屋の店内に入った。

大森はウキウキしながら、まずはビールを注文した。
奈津美はウーロン茶。

奈津美は前回、確認しそびれた大森の左手に指輪がないことを、さりげなく確認すると

「大森さんって、ご結婚は?」

「してないよ。」

焼肉屋のメニューをキラキラした目で見ながら、大森は答えた。
そんな彼を

「なんだか…子供みたい…ちょっとかわいい」と奈津美は思った。

焼肉を食べながら大森が
「そういえば、名前聞いてなかったね」

「前嶋奈津美です。」

「そう、前嶋さんも食べたいもの好きに注文してね」

「焼肉なんて久しぶり。実はすっごくお腹空いてたんです。」

「前嶋さんは学生…かな」

「大学1年です。あと1か月で19歳になります。」

(19歳…俺の半分か…)大森は複雑な気持ちだった。

「聞いたことありません?男女二人で焼肉屋に来てるのは『できてる』って」

「…………」

奈津美が頼んだハラミを焼きながら、大森は返事に困った。
女性とふたりきりで焼肉屋に来ることは、よくあった。
そういえば…そうだったかな…なんて考えながら、
大森は今日の食事と会話が「なんだか…楽しいな」と感じ始めていた。

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