さちこのどんぐり
二人が再会した公園から5分ほど歩いたところに
カウンター席にテーブルが3つしかない小さな居酒屋がある。

狭いから週末はすぐ満席になってしまうのだが、
その日は平日だったため、客は小野寺達2人とカウンターに1人だけだった。


創業、30年を誇る古びた狭い店の奥、さほど広くないテーブルを挟んで二人は
ビールで乾杯しながら、

「そうか、小野寺君はあそこの寮に住んでるのか」

「はい。少し厳しい『寮長』なんて方もいます。引っ越しした初日に、いきなりゴミの出し方が悪いって怒られちゃいました。」

「ははは…木村だろ。あいつと俺は同期だったんだ。」

「あ!そうなんですか。すいません。なんか悪く言っちゃったみたいですが、悪い方ではないと思ってます。」

「いいんだよ。あいつは昔から頑固だったからな」


吉田さんは不思議なひとだ。すごく頭の切れるひとだと思う。
でも、この人と話していると落ち着くというか、安心する。

「小野寺くん。何があったかは知らないが、君はまだ若いんだから、ほとんどのことは時間が解決してくれる。
後悔するのは私のような年になってからだよ。

『苦しい』は人を成長させてくれる。
だからは『苦しい』ことからは逃げずに、それを乗り越えなきゃ人は成長しない。

でも、
『寂しい』は人を腐らせてしまう。
その感情を抱えることや、それと向き合うことに、なんのプラスもない。

だから寂しいと感じるときは、寂しくないように自分を変えるしかないんだ。
『寂しくない』と感じられる日は、いつかきっと来るから。」



小野寺は今夜、この人に会えて良かったと感じた。


少しずつ、ここでの暮らしに慣れていこう。
ここでの仕事にも、
そして、早く「寂しい」と感じることのない夜を迎えられるように…

小野寺は自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
< 19 / 163 >

この作品をシェア

pagetop